ラジャサウルス

ラジャサウルス

Rajasaurus

ラジャサウルスとは

学名(属名) Rajasaurus
名前の意味 王トカゲ
Raja(王)[サンスクリット語]-saurus(トカゲ)[ギリシャ語]
分類 竜盤目・獣脚亜目・アベリサウルス科
全長 約6.6m - 9m
食性 肉食
生息時期 白亜紀後期(マーストリヒチアン期、約6700万年前)
下分類・種名 Rajasaurus narmadensis
論文記載年 2003
属名の記載論文 Wilson, J.A., Sereno, P.C., Srivastava, S., et al. (2003). A new abelisaurid (Dinosauria, Theropoda) from the Lameta Formation (Cretaceous, Maastrichtian) of India.

ナルマダの「王」

ラジャサウルスは、2003年に正式に記載されたインド初となる「頭蓋骨が復元された肉食恐竜」です。名前の「ラジャ(Raja)」はサンスクリット語で「王」を意味し、その名の通り、白亜紀末期のインド亜大陸において生態系の頂点に君臨していたと考えられています。

ラジャサウルスの全身イラスト(Gemini3)
ラジャサウルスの全身イラスト(Gemini3)

最大の特徴は、頭のてっぺん(前頭骨と鼻骨)にある低い丸みを帯びた一本の角です。この角は、種内のディスプレイ(誇示)や頭部を押し付け合うような闘争に使われた可能性があります。
頭蓋骨は非常に頑丈で、特に頭の上の骨(前頭骨)は著しく肥厚していました。これはアベリサウルス科の特徴であり、強力な顎の筋肉を支え、獲物に噛み付く際の衝撃に耐える構造だったと考えられています。

最新の研究(2016年)によると、全長は約6.6メートル、体重は700kg~1.1トン程度と推定されています。かつては9メートル以上とも言われていましたが、比較的小型ながらも非常にがっしりとした体格をしており、強力な捕食者であったことに変わりはありません。

発見と記載:インド恐竜研究の金字塔

ラジャサウルスの記載論文抜粋(2003年)
ラジャサウルスの記載論文抜粋(2003年)
出典:A new abelisaurid (Dinosauria, Theropoda) from the Lameta Formation (Cretaceous, Maastrichtian) of India.(2003)

ラジャサウルスの化石は、1982年から1984年にかけてインド地質調査所(GSI)のスレシュ・スリヴァスタヴァ氏によって、インド西部のグジャラート州ラヒオリ村で発掘されました。しかし、これらの化石が新種として正式に記載されるまでには約20年の歳月を要しました。

2001年、アメリカのポール・セレノ博士とジェフリー・ウィルソン博士がインドを訪れ、GSIとの共同研究として化石の再調査を行いました。その結果、バラバラになっていた骨が単一個体のものであることが判明し、既知のどの恐竜とも異なる新属新種であることが明らかになりました。
この発見は、長らく断片的で分類が混乱していたインドの恐竜研究において、記念碑的な転換点となりました。かつて「インドスクス」や「ラメタサウルス」として知られていた化石の一部も、現在ではラジャサウルスに関連するものとして整理されています。

古環境と生態:ゴンドワナ大陸

ラジャサウルスが生息していた約6700万年前、インドはゴンドワナ大陸から分離し、ユーラシア大陸に向かって北上する「島大陸」でした。この孤立した環境で、ラジャサウルスは独自の進化を遂げました。

ラジャサウルスの頭骨化石
ラジャサウルスの頭骨化石(2009年撮影)

興味深いことに、ラジャサウルスに最も近い親戚は、遠く離れたマダガスカル島のマジュンガサウルス(Majungasaurus)であることが分かっています。これは、インドとマダガスカルがかつて陸続きであり、アフリカや南米よりも長く繋がっていたことを示す生物学的な証拠となっています。

当時のインドは、デカン・トラップと呼ばれる大規模な火山活動の只中にありました。ラジャサウルスは、火山灰が降り注ぐ激動の環境下で、イシサウルス(Isisaurus)などの巨大な竜脚類を獲物としていたと考えられています。待ち伏せ型の狩りを得意とし、強靭な首と顎を使って獲物に食らいつき、致命傷を負わせていたのでしょう。

また、同じ地層からは別の種類のアベリサウルス類であるラヒオリサウルス(Rahiolisaurus)も見つかっています。ラヒオリサウルスはより華奢な体型をしており、頑強なラジャサウルスとは狙う獲物や生息場所を分け合う「ニッチ分割」を行っていた可能性があります。