化石から性別を見分けるのは難しい
化石から恐竜の性別(オス、メス)を判別するのは、簡単なことではありません。
生殖器など明らかに性別を示す部分は、化石として残りにくいからです。そのため、骨格の違い(性的二形)から性別を推定する研究が行われています。

例えば、周飾頭類のプロトケラトプスは、鼻の上の突起やフリルの反りが異なる2パターンの頭骨が見つかっています。これらの違いは性別を示していると考えられていますが、どちらがオスでどちらがメスかの判断はできていません。
また、ハドロサウルス類に見られる頭部のトサカの大きさや、パキケファロサウルスの分厚い頭骨なども性的二形ではないかという説がありますが、成長段階による差である可能性も高く、性別の決定的な証拠とはなっていません。
骨髄骨が見つかればメス
性的二形による判定が難しい一方、「発見された恐竜が、メスである」と確実に判定できるケースがあります。
2005年、アメリカ・モンタナ州で見つかったティラノサウルスは「メスである」と断定されています。
鳥類は産卵の際に、大腿骨などの内側に骨髄骨(髄様骨)と呼ばれる特殊な骨組織をつくります。これは、卵の殻の成分となるカルシウムを一時的に蓄えたもので、産卵期を経験したメスにしか見られません。
先述のティラノサウルスにもこの骨髄骨の形跡が化石として残っており、メスであることが確定しました。さらに、その後の化学分析で、現生鳥類の骨髄骨にも含まれるケラタン硫酸という物質が検出され、この発見は科学的に裏付けられています。
他に、推定10歳のアロサウルスや推定8歳のテノントサウルス(イグアノドンの仲間)にも、骨髄骨が認められた個体が発見されています。これらも出産経験のある雌(メス)ということになります。
性別判定の難しさと今後の展望
骨髄骨が有るのは「産卵経験のあるメス」ですが、骨髄骨が無い個体が必ずしも「オス」であるとは限りません。
骨髄骨が無いのは、「産卵を経験していないメス」である可能性もあるからです。
実際に、獣脚類のオビラプトルの化石は卵を抱いた状態で見つかりましたが、この個体の骨には骨髄骨がありませんでした。親が卵を温めていたとすれば、産卵経験のない個体、つまりオス(父親)が抱卵していた可能性が考えられます。ただし、これも断定はできていません。
ティラノサウルスの体格は、がっしりしたタイプと比較的きゃしゃなタイプに分かれることも知られています。
この体格差が性別によるものだと指摘されることもあります(俗説では「がっちりしている方が出産するのに適しているためメス」とされることがありますが、科学的な根拠はなく、どちらがオスでどちらがメスかはわかっていません)。

雄の頭骨か?

雌の頭骨か?
このように、恐竜の性別判定は非常に難しい課題ですが、研究は進んでいます。例えば、恐竜以外の古生物では、海生爬虫類のケイチョウサウルスで、オスの前あしの骨がメスより太いことが判明しており、これは交尾の際に行動の違いがあった証拠と考えられています。
現時点では、骨髄骨が確認された保存状態の良い化石でしかメスと判定できませんが、今後、化石からタンパク質などの分子情報を読み取る技術が進歩すれば、より多くの恐竜の性別が明らかになるかもしれません。更なる研究・発見が待たれます。