
恐竜が絶滅した理由
Tyrannosaurus
ティラノサウルスは大型肉食恐竜の代名詞と言ってもよいほど、最も有名な恐竜のひとつです。
ティラノサウルス属には、今のところ「レックス」一種しか見つかっていません。そのため、属名と種名を合わせた呼び方「ティラノサウルス-レックス(Tyrannosaurus-rex)」、「T-REX」の名称が定着しています。
また近年では、7-9メートル級の近縁となる大型獣脚類からも羽毛の跡が見つかったことから、「ティラノサウルスに羽毛があった可能性」についても議論されるようになりました。
強靱な顎と鋭く大きな歯をもつティラノサウルスは、獲物となった動物の骨までかみ砕いたと考えられています。噛む力は数トンにも及びました。 歯は大きなもので30cmになります。歯のふちにはセレーション(鋸歯状)と呼ばれるステーキナイフのようなギザギザが付いていて、肉を引き裂きやすい構造になっていました。
手(前肢)は極端に短く、指は2本でした。
短すぎる前肢(腕)の使い方はよく分かっていませんが、2017年には「噛みついた後に獲物を深く切り裂く役目を負っていた」ことを示唆する論文が発表されています(ただし、この説には多くの学者が反対の意見を唱えています)。
他の恐竜に比べて、両目は前面に向いています。立体的にものを見ることができる(獲物との距離や速度を正確に把握できる)ため、動く動物を捕らえるのに適していました。
見つかった化石-断面の成長線を調べることで、ティラノサウルスの寿命はおよそ30歳と推定されています。
卵から孵ったときには、全長60cm、体重2kg。2歳になるころには、60%の個体が死亡しています。
ティラノサウルスの成長速度についての論文抜粋(2004年)
出典: "Gigantism and comparative life-history parameters of tyrannosaurid dinosaurs.", 2004.
by Erickson, Gregory M.; Makovicky, Peter J.; Currie, Philip J.; Norell, Mark A.; Yerby, Scott A.; Brochu, Christopher A. Nature.
また、2004年にはアメリカの研究チームが7体の標本を調べ、「成長期は14-18歳で、この間には1日あたり2.1kg、4年で3000kgの成長をしていた」と結論づけました。
化石に残った跡から、「多くのティラノサウルスは30歳に近づくと、ケガをしていたり、関節の病気にかかっていたこと」が分かっています。
2002年に発見されたティラノサウルス(愛称ワイレックス(Wyrex))の尾は噛み砕かれたように切断され、
さらに、切断面に感染症の跡が確認されました。
切断されたところに感染症の跡が残っていることは、ワイレックスが生きている間に尾を噛み砕かれた可能性を示唆しています。
白亜紀後期に成長したティラノサウルスの尾を噛み砕くことのできる存在-やはり、ティラノサウルスによるものだと推測されています。
2010年には、噛み跡が4箇所残るティラノサウルスの脚化石が発見されています。 ただし、こちらは生きている間につけられた傷なのか、死後に仲間に食べられた跡なのかは分かっていません。
「ティラノサウルスに羽毛はあったのか。」
この論争に結論は出ていません。
ティラノサウルスと近縁の小型獣脚類ディロング等から羽毛の跡が見つかっていることから、 「体温調節の難しい小さな頃(幼体)には羽毛が生えていたのでは」 と考える説があります。 「身体が小さいときは体積に対する表面積が大きく体温を保つために羽毛に覆われているが、成長して身体が大きくなると体積に対する表面積が小さくなって熱を逃がすために羽毛はなくなった」と考えられたのです(コップのお湯は冷めやすいが、お風呂のお湯は冷めにくいのと同じ原理です)。
ところが近年、近縁とされる9m級の大型獣脚類の化石から羽毛の跡が見つかりました。 そのため成長したティラノサウルスにも羽毛があったと考える学者もいますが、2017年にはウロコで覆われていたとする論文も提出されています。 まだ、羽毛があったのか否かの論争は続きそうです。
オズボーンOsbornの論文に記載されたティラノサウルスの骨格図(1905年)∗標本番号AMNH1973の箇所が塗られています
出典:Tyrannosaurus and other Cretaceous carnivorous dinosaurs. Bulletin of the AMNH ; article 14.by Osborn,1905.
ティラノサウルスの名前が初めて論文に掲載されたのは、1905年のことです。 1902年にアメリカ・モンタナ州で発掘された化石(標本番号AMNH 973)にもとづいて、3年後古生物学者オズボーンOsbornが新属"Tyrannnosaurus"として命名・記載しました。 論文を発表した時、標本AMNH 973はまだクリーニング中だったそうです。(標本番号AMNH 973は、のちに所蔵博物館が変わったことから、標本番号CM 9380に変更されています)
オズボーンOsbornの論文に記載されたディナモサウルス(標本番号AMNH 5866)のスケッチ(1905年)
出典:Tyrannosaurus and other Cretaceous carnivorous dinosaurs. Bulletin of the AMNH ; article 14.by Osborn,1905.
同じ論文の中には、別属別種としてディナモサウルス"Dynamosaurus imperiosus"も記載されています。1900年に発掘された標本番号AMNH 5866にもとづいて記載されたものです。
しかし、翌年1906年にオズボーンは、ディナモサウルスをティラノサウルスのシノニム(別名)として記載し直します。前述の標本番号AMNH 973のクリ-ニングを終えると、両者に明確な差異がなかったのです。
オズボーンがディナモサウルスではなくティラノサウルスの名前を残した理由は、たまたま1905年の論文の中でティラノサウルスの方を先に記載していたからと推察されています。
最大級の人気を誇るティラノサウルスには、多くの愛称(ニックネーム)がついた標本が存在します。
その一部を紹介します。
カナダ・アルバータ州Willow Creek層で発見された標本(1980年に釣りに来ていた高校生たちによって露出が見つかり、1982年から本格的な発掘作業が開始されました)。 ブラック・ビューティーの愛称は、化石になる過程でマンガンが染み込んで黒色となったことに由来します。
原標本(標本番号RTMP 81.6.1)はカナダのロイヤルティレル博物館に所蔵されていますが、日本・茨城県立自然博物館でそのレプリカを観ることができます。
1987年にアメリカ・サウルダコタ州ハーディング郡で発掘されました。
スタンの頭骨や肋骨などには、傷の治癒した形跡が残されています。
2014年まで、全身骨格のレプリカが東京国立科学博物館で展示されていました(2018年現在は、愛称バッキ-Bucky(標本番号TCM 2001.90.1)のレプリカが常設展示されています)。
1988年にアメリカ・モンタナ州チャールズ・マリオン・ラッセル国立野生動物保護区で発掘されました。 原標本(標本番号MOR 555)はアメリカ陸軍の施設が所有し、現在アメリカのスミソニアン国立自然史博物館に貸与されています(2063年まで貸与することで合意)。 ワンケル・レックスの愛称は、発見者のキャシー・ワンケルに由来します。
ワンケル・レックスが死亡した年齢は18歳前後だったと推測されています。
スーは1990年にアメリカ・サウルダコタ州のインディアン居住区で発掘されました。
スーの愛称は、発見者の古生物学者スーザン・ヘンドリクソンに由来します。
恐竜の骨格標本では最高レベルとなる90%以上の現存率を誇ります。全長12.3メートルと推定。
生前、負傷のための関節炎や痛風だった痕跡が残されています。死亡したときの年齢は28歳だったと見積もられています。
スーの名前を一般に知らしめたのは、1997年のオークションでしょう。シカゴのフィールド自然史博物館が760万ドルで落札しました(オークション主催者への手数料を含めて、支払額は約836万ドル(当時のレートで約7億5000万円)だったそうです)。 原標本(標本番号FMNH PR 2081)は、オークションで落札したアメリカ・フィールド自然史博物館が所有しています。
スコッティはカナダ・サスカチュワン州で発見されました。1991年に現地の高校教師と博物館学芸員によって発見され、1994年から本格的な発掘調査が行われました。
スコッティの愛称は、スコッチ・ウィスキーに由来します。発掘現場での祝杯にスコッチを飲んだことに起因するとか。
2001年にアメリカ・モンタナ州で発掘されました。
全長6.5mの若い個体でした。死亡時の年齢は11歳と推定されています。別の属ナノティラヌスの可能性も示唆されています。
体格に対して脚が長く、速いティラノサウルスだったようです。
原標本BMRP 2002.4.1は、イリノイ州バーピー自然史博物館所蔵。
学名(属名) | Tyrannosaurus |
名前の意味 | 暴君トカゲ tyrannos(暴君)[ギリシャ語]-saurus(トカゲ)[ギリシャ語] |
分類(分岐分類) | 竜盤目・獣脚類(獣脚亜目・テタヌラ下目) |
体長(大きさ) | 約13m |
食性 | 肉食 |
生息時期 | 白亜紀末期 |
下分類・種名 | Tyrannosaurus rex |
論文記載年 | 1905 |
模式標本の記載論文 | Tyrannosaurus and other Cretaceous carnivorous dinosaurs. Bulletin of the AMNH ; article 14. by Osborn,1905. |