ヴェラフロンス

ヴェラフロンス

Velafrons

ヴェラフロンスとは

学名(属名) Velafrons
名前の意味 帆のある額
Velum(帆)[ラテン語]-Frons(額)[ラテン語]
分類 鳥盤目・鳥脚類・ハドロサウルス科 (ランベオサウルス亜科)
全長 約7.6m(亜成体) - 10m(成体推定)
食性 植物食
生息時期 白亜紀後期(カンパニアン期 約7350万年~7274万年前)
下分類・種名 Velafrons coahuilensis
論文記載年 2007
属名の記載論文 Gates, T. A., et al. (2007).
Velafrons coahuilensis, a new lambeosaurine hadrosaurid (Dinosauria: Ornithopoda)
from the Late Campanian Cerro del Pueblo Formation, Coahuila, Mexico.
Journal of Vertebrate Paleontology, 27(4), 917-930.

メキシコで見つかった「帆のある額」

ヴェラフロンスは、2007年にメキシコのコアウイラ州で記載されたハドロサウルス科の恐竜です。属名はラテン語で「帆(Velum)」と「額(Frons)」を意味し、頭頂部に扇のような鶏冠(クレスト)を持っていたことに由来します。
北米大陸でハドロサウルス類の新属が命名されるのは約70年ぶりのことであり、これまで謎に包まれていた「南部ララミディア大陸」の生態系を解き明かす重要な発見となりました。

>ヴェラフロンスの生体想像図
ヴェラフロンスの生体想像図(made by Gemini)
特徴的な頭部の「帆」が名前の由来です

ヴェラフロンスはランベオサウルス亜科に属しており、北米北部に生息していたコリトサウルスやヒパクロサウルスと近縁なグループに含まれます。頭骨の構造、特に前上顎骨と鼻骨によって形成される鶏冠の形状に共通点が見られますが、ヴェラフロンスは独自の進化を遂げた固有の属です。

子供なのに巨大? 驚くべき成長戦略

発見されたヴェラフロンスのホロタイプ標本(CPC-59)には、非常に興味深い特徴があります。頭骨の縫合線の状態や鶏冠の発達具合から、この個体はまだ完全な大人ではない「亜成体(子供)」であることが判明しています。
しかし驚くべきはそのサイズです。この「子供」の時点で、全長は約7.6メートルにも達していました。これは北米北部の近縁種であれば、すでに成体に近い大きさです。

このことから、ヴェラフロンスの成体は全長9メートルから10メートルに達する大型恐竜であったと推定されています。彼らは、当時の生態系における捕食者(ティラノサウルス科の恐竜など)に対抗するため、頭部の装飾を発達させるよりも先に、体を巨大化させる成長戦略をとっていた可能性があります。

古代の河口・湿地帯での暮らし

ヴェラフロンスが見つかった「セロ・デル・プエブロ層(Cerro del Pueblo Formation)」は、白亜紀後期には海に面した湿潤な環境でした。当時のコアウイラ州は、広大なデルタ地帯や河口域(エスチュアリー)が広がり、現代のマングローブのような豊かな植生に覆われていたと考えられています。
カキや巻貝などの化石と共に発見されることから、ヴェラフロンスは水辺を好み、栄養豊富な植物を食べて暮らしていた「海辺の住人」だったのかもしれません。

他の恐竜との共存関係

同じ地層からは、別のハドロサウルス類である「ラティリヌス(Latirhinus)」も発見されています。ラティリヌスは鼻が広く、低い位置の植物を食べるのに適していたのに対し、ヴェラフロンスはより高い位置の植物を選んで食べていたと考えられています。このように異なる種類の恐竜が、食べるものや場所を分ける「ニッチ分割」を行うことで、同じ環境で共存していました。

最新研究:角竜との共存関係について

長い間、巨大な角を持つ角竜「コアウイラケラトプス」もヴェラフロンスと同時代に生息していたと考えられてきました。
しかし、2024年7月に発表された最新の研究により、コアウイラケラトプスの発見された地層はヴェラフロンスよりも約200万年~250万年新しい「セロ・ウエルタ層」であることが判明しました。つまり、ヴェラフロンスとコアウイラケラトプスは共存していなかったことになります。

鶏冠の役割

ヴェラフロンスの復元図
ヴェラフロンス・コアウイレンシス

他のランベオサウルス亜科と同様に、ヴェラフロンスの鶏冠の中は空洞になっており、鼻腔が通っていました。これには主に2つの役割があったと考えられています。

  • 音響共鳴: 鶏冠の中で音を反響させ、低周波の大きな鳴き声を出すことで、遠くの仲間とコミュニケーションをとっていた。
  • 視覚的ディスプレイ: 額の帆のような形は、仲間同士の識別や、成体においては異性へのアピールに使われていた。

ホロタイプ標本が亜成体であるため、完全に成長した大人のヴェラフロンスがどのような形の鶏冠を持っていたのかは、今後の発見が待たれます。