デイノケイルス

デイノケイルス

Deinocheirus

デイノケイルスとは

学名(属名) Deinocheirus
名前の意味 恐ろしい手
deinos(恐ろしい)[ギリシャ語]-cheir(手)[ギリシャ語]
分類 竜盤目・獣脚亜目・オルニトミモサウルス類
全長 約11m
食性 雑食
生息時期 白亜紀後期 (約7000万年前)
下分類・種名 Deinocheirus mirificus
論文記載年 1970
属名の記載論文 Osmólska, H. & Roniewicz, E. (1970). Deinocheiridae, a new family of theropod dinosaurs. Palaeontologia Polonica 21.

半世紀の謎を解いた「恐ろしい手」の正体

デイノケイルスは、白亜紀後期に現在のモンゴルに生息していた、非常に奇妙な姿をした恐竜です。全長は約11m、体重は6トンを超えると推定される大型のオルニトミモサウルス類で、その仲間の中では最大級の大きさを誇ります。

デイノケイルスの全身骨格化石
デイノケイルスの全身骨格化石(2019年撮影)

最大の特徴は、学名の由来にもなった長さ2.4mにも達する巨大な腕と、鋭い鉤爪です。1965年にこの腕の化石が初めて発見されたとき、その巨大さから誰もが獰猛な肉食恐竜を想像しました。しかし、その後50年近く他の部位の化石が見つからず、デイノケイルスは「謎の恐竜」として古生物学最大のミステリーの一つとされていました。

2006年と2009年に発見された2体の頭部、胴体部分の研究成果が、2014年発表され、その驚くべき全体像が明らかになりました。デイノケイルスはティラノサウルスのような肉食恐竜とは全く異なり、背中にはラクダのこぶのような高い帆があり、頭部は歯のないカモのようなくちばしを持つ、非常にユニークな姿をしていたのです。

デイノケイルスのイラスト
デイノケイルスのイラスト

胃の内容物の化石からは魚の骨や鱗、そして植物の種子などが見つかっており、デイノケイルスが特定の食べ物に偏らない雑食性であったことが判明しました。巨大な腕の爪は、獲物を捕らえるためではなく、植物をたぐり寄せたり、地面を掘ったりするために使われたのではないかと考えられています。

発見と研究の歴史

デイノケイルスの腕の化石
デイノケイルスの腕の化石(2019年撮影)

1965年、ポーランドとモンゴルの合同調査隊がゴビ砂漠のネメグト層で巨大な両腕の化石を発見しました。この発見は世界に衝撃を与え、1970年にハルシュカ・オスモルスカとエワ・ロニエヴィッチによってDeinocheirus mirificus(「普通ではない、恐ろしい手」の意)と命名されました。

しかし、その後、長らく追加の化石は発見されませんでした。2006年と2009年に、韓国とモンゴルの合同調査隊が2体の部分的な骨格を発見しましたが、残念なことに、これらの標本は頭骨や手足などが盗掘され、失われていました。

デイノケイルスの爪化石
デイノケイルスの爪化石(2019年撮影)

転機が訪れたのは2011年です。ヨーロッパの個人コレクターが所有していた化石が、盗掘されたデイノケイルスの頭骨と足であることが判明。研究者たちの努力により、この標本はモンゴルに返還され、先に発見されていた胴体の骨格と組み合わせることで、ついにデイノケイルスの全身像が復元されたのです。この一連の出来事は、化石の盗掘問題と国際協力の重要性を物語るドラマチックなエピソードとして知られています。