恐竜ニュース:空への挑戦は一度きりじゃなかった!羽毛恐竜たちの多様な飛行進化

空への挑戦は一度きりじゃなかった!

新種ノレルラプトルが明かす羽毛恐竜たちの多様な飛行進化

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恐竜から鳥類への進化において、「空を飛ぶための体の仕組み(飛行装置)」は一度だけ進化したのか、それとも複数のグループで別々に進化したのか――。この長年の大論争に決着をつける決定的な発見がもたらされました。

2026年9月に発表された、中国・遼寧省の白亜紀前期の地層から見つかった新属新種の羽毛恐竜「ノレルラプトル・バルスボルディ(Norellraptor barsboldi)」です。この保存状態の良い化石の分析から、驚くべき事実が明らかになりました。

  • 4枚の翼を持つ新種恐竜: 前あしと後ろあしの両方に発達した羽を持つ、全長約57cmの小型ミクロラプトル類
  • 逆転していた進化の順序: 鳥類と約30%の特徴を共有しながらも、手や胸の骨が変化した順番が正反対だったことを解明
  • 独自の成長と多元的な空への挑戦: 骨の「年輪」から鳥類とは異なるゆっくりとした成長スピードを確認し、複数の恐竜が別々のルートで空を目指したことを実証

新種ノレルラプトルの発見がどのように「羽毛恐竜の空への挑戦」を解き明かしたのか、最新の研究成果を交えてわかりやすく解説します。

研究の背景:空への進化は「一本道」だったのか?

恐竜から鳥類への進化の過程で、空中を移動するための体の仕組みがどのような道筋をたどって獲得されたのかという問いは、古生物学における重要テーマの一つです。特に、鳥類(Avialae)と最も近い関係にある獣脚類恐竜のグループである原鳥類(げんちょうるい:Paraves)の仲間では、前あしだけでなく後ろあしにも発達した風切羽(かざきりばね)を持つ「4枚の翼(四翼)」の恐竜が複数報告されてきました。

しかし、鳥類ではないこれらの羽毛恐竜に見られる「飛ぶための特徴」が、単一の共通祖先から受け継がれた名残なのか、それとも異なる系統で別々に獲得された「収斂進化(しゅうれんしんか)」の産物なのかについては、長年にわたり論争が続いてきました。

原鳥類(Paraves)と収斂進化(しゅうれんしんか)とは:
原鳥類: 現生の鳥類へとつながる「鳥類系統(Avialae)」と、それに最も近縁な羽毛恐竜(ミクロラプトルやヴェロキラプトルを含むドロマエオサウルス科、トロオドン科、ウネンラギア科)を合わせた分類グループのことです。
収斂進化: 系統の異なる生物が、同じような環境や生活スタイルに適応した結果、互いに似た体の形や機能を独立して進化させる現象のことです(例:鳥の翼とコウモリの翼など)。

2026年9月29日付で科学誌『Nature Communications』に公開された論文「Independent assembly of the flight apparatus in a non-avian dinosaur clade(非鳥類恐竜クレードにおける飛行装置の独立した組み立て)」は、この論争に対して決定的な証拠を提示しました。中国地質科学院および河北地質大学の王旭日(Xuri Wang)博士、季強(Qiang Ji)博士、イタリア・OPHIS古生物学博物館のアンドレア・カウ(Andrea Cau)博士、スロバキアのマルティン・クンドラート(Martin Kundrát)博士らによる国際共同研究チームは、中国遼寧省の白亜紀前期の地層から産出した保存状態の良いミクロラプトル亜科の新属新種「ノレルラプトル・バルスボルディ(Norellraptor barsboldi)」を記載・報告したのです。

本研究の最大の意義は、単に保存の良い4翼恐竜の新種を追加したことにとどまりません。研究チームは、骨格の詳細な比較、前あしの骨の内部構造(骨組織学)の分析、そして大規模な進化系統の解析を組み合わせることで、"ミクロラプトルの仲間"と"鳥類"の双方において、飛行に関わる特徴が「どの順序で段階的に組み立てられたか」を特定しました。その結果、両者が多くの似た特徴を共有しているにもかかわらず、それらが進化した順番は正反対であり、異なる環境からの要求(選択圧)のもとで飛行装置が別々に作り上げられたことが証明されたのです。

新属新種「ノレルラプトル・バルスボルディ」の正体

ノレルラプトル・バルスボルディ(Norellraptor barsboldi)のイラスト
ノレルラプトル・バルスボルディの想像図
Gemini Generated Image

発見の経緯と偉大な研究者への献名

ノレルラプトル・バルスボルディの基準標本(ホロタイプ標本番号:130108-MHGU-F4281)は、中国北東部・遼寧省西部の建昌県喇嘛洞(ラマドン)鎮の近くに広がる白亜紀前期の地層「九仏堂層(きゅうふつどうそう:約1億2,000万年前)」から地元の農民によって発見され、2023年に河北地質大学博物館へ寄贈されました。研究チームによる厳密な検証の結果、全身の骨が自然な関節の状態を保っており、複数の石を組み合わせた合成や改変のない、完全な単一個体の標本であることが確認されました。

学名の Norellraptor barsboldi は、獣脚類恐竜から鳥類への進化研究を長年にわたり牽引し、ともに2025年に逝去された2名の世界的古生物学者、アメリカ自然史博物館のマーク・アレン・ノレル(Mark Allen Norell, 1957–2025)博士と、モンゴル科学アカデミーのリンチェン・バルスボルド(Rinchen Barsbold, 1935–2025)博士の多大な学術的貢献を讃えて命名されました。

本種が生息していた白亜紀前期の九仏堂層(熱河生物群の後期フェーズ)は、温暖な森林と湖沼が広がる豊かな環境でした。当時の生態系では、ティラノサウルス類のシノティラヌス(Sinotyrannus)や、植物食の角竜プシッタコサウルス(Psittacosaurus)、初期の哺乳類リアオコノドン(Liaoconodon)、多様な翼竜類、そして多数の初期鳥類が共存しており、森の中の立体的な空間をめぐる高度なすみ分け(生態的分化)が進んでいました。

4枚の翼とハンターの武器を併せ持つ身体

発見された標本は全長約57cm(約22インチ)の個体で、肩や腰の周辺の一部にわずかな関節のずれが見られるものの、頭骨から尾の先端に至るまでほぼ完全な状態で保存されています。系統解析の結果、本種はミクロラプトル亜科の中でも後期に枝分かれしたグループに位置づけられ、同じく九仏堂層から見つかっているゾンジアノサウルス(Zhongjianosaurus)と最も近い姉妹群を形成することが明らかになりました。

ノレルラプトルを他のすべてのミクロラプトル類から区別する独自の特徴(固有派生形質)は、頭骨の鼻先(吻部)と骨盤の構造に計4つ確認されています。具体的には、「上あご先端の骨(前上顎骨)の独特な比率」、「目の前にあるくぼみ(前眼窩窩)の前方3分の1を占めるほど巨大な窓構造(前上顎窓)とその35度の傾き」、「窓の間を仕切る非常に細い骨の柱」、そして「骨盤の恥骨が後方へ緩やかに曲がり、その先端(恥骨ブーツ)が著しく小さい」という特徴を持っています。

さらに、骨格の周囲(右上腕、腰の周り、尾、およびすねから足にかけて)には羽毛の印象化石が残されており、ミクロラプトル類の代名詞である「前あしの翼+後ろあしの翼」という4翼構造を備えていたことが裏付けられています。前あしには揚力を生み出す左右非対称の風切羽があり、尾には太く強靭な軸を持つ羽が備わっていました。一方で、鋭いノコギリ状の歯や、後ろあしの第2指に発達したドロマエオサウルス科特有の「鎌状のカギ爪(シックル・クロー)」といった肉食ハンターとしての特徴も共存しており、初期の空中移動への適応が地上や樹上での狩りと密接に結びついていたことを示しています。

表1:ノレルラプトルと近縁なミクロラプトル亜科の恐竜との比較
比較対象の恐竜 体の部位 ノレルラプトル(Norellraptor)の特徴 比較対象属における違い
ゾンジアノサウルス
(Zhongjianosaurus:姉妹群)
胸・胴体・尾 太ももの骨(大腿骨)の長さに対して、胸骨および尾が短い。肩の骨(烏口骨)の外側の突起が目立つ。 大腿骨に対する胸骨および尾の比率がより長く、肩まわりの骨の形状が異なる。
ゾンジアノサウルス
(Zhongjianosaurus:姉妹群)
前あし・手首 後ろあしに対して前あしが短く華奢(きゃしゃ)。手のツメ直前の指の骨に、下向きの曲がりがない。 前あしがより頑丈で長く、手の指の骨に強い下向きの湾曲が見られる。
ゾンジアノサウルス
(Zhongjianosaurus:姉妹群)
足の甲・足指 足の甲の骨(足根中足骨)の上部外側に目立つ突起があり、第3指のツメ直前の骨があまり長くない。 外側突起の発達が弱く、第3指の該当する骨がより長く伸びる。
ミクロラプトル
(Microraptor)
歯並び 上あご前方の歯がより大きく、下あご先端の最初の3本の歯が前方に傾かない。 下あご先端の歯が前方に向かって傾く特徴を持つ。
ミクロラプトル
(Microraptor)
前腕・足の甲 前腕の骨(尺骨)の先端に球状の突起があり、足の甲の第2〜第4中足骨の上部がより広い範囲で結合(癒合)する。 尺骨先端の球状突起を欠き、中足骨の結合範囲がノレルラプトルほど広くない。
チャンギュラプトル
(Changyuraptor)
下あごの歯・手首 下あごの歯の根元がくびれており、手首の半月状の骨が手のひら(第2中手骨)をわずかに覆うのみ。 歯の根元のくびれがなく、手首の骨と手のひらの骨が重なる範囲が異なる。
グラシリラプトル
(Graciliraptor)
足の甲の先端 足の甲の第2中足骨と第3中足骨の先端の幅がほぼ同じ。 第2中足骨と第3中足骨の先端の幅に明確な差がある。
シノルニトサウルス / ヘスペロニクス
(Sinornithosaurus / Hesperonychus)
骨盤(恥骨) 恥骨の先端にある「恥骨ブーツ」と呼ばれる広がりが、比率として著しく小さい。 大きく発達した恥骨ブーツを持っている。
ウーロン
(Wulong)
頭骨(目の前のくぼみ) 前眼窩窩にある「前上顎窓」が前方3分の1を占めるほど巨大で、隣の上顎窓とのサイズ比が独自。 前上顎窓と上顎窓のサイズ比および配置が異なる。

進化の順序が逆転!パーツの「組み立て方」が証明した独立進化

本研究における最大のブレイクスルーは、ノレルラプトルを最新の進化系統データに組み込み、ミクロラプトル亜科の進化の枝に沿って起きた計194個の解剖学的な変化を特定したことです。

約30%の特徴が鳥類と一致、しかし順番は正反対

ミクロラプトル類で起きた194個の変化のうち、約30%にあたる57個の特徴は、現生の鳥類へとつながる「鳥類系統(Avialae)」でも同じように獲得されていました。これら57個の共通点には、前あしの骨が太く頑丈になること、ろっ骨や胸まわりの補強、手首と手のひらの骨の結合(癒合)、飛ぶための筋肉がつく胸骨の伸長、手の指の骨の短縮など、空中での羽ばたきや滑空に直結する重要なパーツが数多く含まれています。

もし「似ている特徴の数」だけを見れば、これらの仕組みは共通の祖先で一度だけ進化したと誤解されてしまうかもしれません。しかし、研究チームがこれら57個の特徴がそれぞれの進化の歴史の中で「どの順番で現れたか」を時系列に沿って追跡したところ、ミクロラプトル類と鳥類系統とでは組み立ての順序が完全に逆転していることが判明したのです。

  • ミクロラプトル亜科の組み立て順序(手から胸骨へ): 進化の非常に早い段階で、まず「手の指の骨の短縮」が先行して起きました。これにより、獣脚類が本来持っていた「前あし(手)で獲物や枝を掴む能力」が早い段階で弱まりました。その後、ノレルラプトルやゾンジアノサウルスが位置する後期のグループになって初めて、「手首・手のひらの骨の結合」や、羽ばたく筋肉を支える「胸骨の伸長」といった骨格を固定・強化する特徴が段階的に追加されました。
  • 鳥類系統の組み立て順序(胸骨から手へ): 鳥類の祖先では順序が正反対でした。手の指が短くなるよりも前に、まず「手首・手のひらの骨の改変・結合」および「胸骨の大型化・伸長」が先に獲得されました。つまり、初期の鳥類は前あしで物を掴む機能を保ったまま翼の基部と胸の推進エンジンを先に整え、その後の段階で指の骨を短くしていったのです。

なぜミクロラプトル類は「手で掴む力」を早く手放せたのか?

この「組み立て順序の不一致」が持つ意味は極めて重要です。もしミクロラプトル類と鳥類が、空を飛べる単一の共通祖先から飛行システムを受け継いでいたか、あるいは単一の共通した発生プログラムに従っていたのなら、指先と胸・手首が変化する順番は一致するはずです。それが明確に逆転しているという事実は、両者が別々の環境課題に向き合いながら、異なる手順で独立して飛行装置を組み立てたことを決定づけています。

では、なぜミクロラプトル類では手の把握力を犠牲にする「指の短縮」が先に起きることができたのでしょうか。その鍵は、彼らの強力な「後ろあし」にあります。ノレルラプトルの標本が示す通り、ミクロラプトル類は足の甲の骨が緊密に束ねられた構造(アークトメタターサル状態)と、第2指の巨大な鎌状のカギ爪という、極めて強力な後ろあしの捕食・ジャンプ機構を持っていました。

アークトメタターサル(Arctometatarsal)とは:
足の甲を構成する3本の骨(第2〜第4中足骨)のうち、真ん中の「第3中足骨」の上部が両側の骨に強く挟み込まれて細くなり、足全体が一本の頑丈な柱のように機能する構造のことです。走るスピードやジャンプ時の衝撃吸収を高める進化であり、ティラノサウルス類やトロオドン類、そしてミクロラプトル類などに見られます。

近縁のミクロラプトルの先行研究でも、獲物を捕らえる際に前あしではなく「後ろあし(足)」を積極的に使っていたことが指摘されています。後ろあしが狩りの主役を担っていたからこそ、ミクロラプトル類では「前あしで物を掴まなければならない」という制約が早くに解消され、胸や手首の骨が完全に固まるよりも前に、指を短くして風切羽を支える翼へと作り変える進化が進んだと考えられます。

骨の「年輪」が語る、鳥類とは異なる成長スピード

化石の特徴が進化のどの段階で現れたのかを正確に評価するためには、その化石個体が「まだ発育途中の子ども(幼体)」なのか、それとも「成熟した個体」なのかを見極める必要があります。子どもの未熟な特徴を、進化上の古い特徴と取り違えてはいけないからです。

顕微鏡で判明した「3歳以上」の年齢

研究チームは、ノレルラプトルの左前腕の骨(橈骨:全長49mm)の中央付近からごく小さな骨片サンプルを採取し、厚さ52マイクロメートル(1ミリメートルの約20分の1)という極薄の切片にして顕微鏡で観察する「骨組織学(こつそしきがく)」の解析を行いました。

成長停止線(LAGs:Lines of Arrested Growth)とは:
木の年輪のように、動物の骨の断面に見られる「成長が一時的に止まった、または緩やかになった時期」を示す層状の線のことです。季節の変化などに伴って1年に1本ずつ形成されることが多く、恐竜の死亡時の年齢や成長スピードを割り出すための重要な指標となります。

観察の結果、骨の外側(皮質骨)の内部には少なくとも2本の明確な成長停止線(LAGs)が保存されていました。さらに、骨の中心部(骨髄腔)が広がる過程で最初の1年目の成長層が吸収されて消えた痕跡が確認されたため、このノレルラプトルは死亡時に少なくとも3歳以上であったと推定されました。また、骨の微細な構造からは、急速に骨が作られる時期とゆっくり作られる時期が交互に繰り返されていたことが分かり、孵化したばかりの幼体ではなく、成熟に近づきつつある「おとな一歩手前の段階(後期幼体〜亜成体)」であったと結論づけられています。

鳥類の急速成長とは異なる独自の成長モデル

この骨の内部構造の発見は、2つの重要な事実を浮き彫りにしました。
第一に、「骨の成長スタイルそのものの違い」です。近縁恐竜のウーロン(Wulong)やシノルニトサウルス(Sinornithosaurus)の骨データとも比較した結果、ミクロラプトル類は孵化後の早い段階から前あしが機能的に発達する特徴を持ちつつも、3年以上にわたって周期的に成長ペースを落としながらゆっくりとおとなへ向かう独自の成長モデルを持っていました。これは、1年未満という短期間で一気に成体サイズまで急成長する多くの現生鳥類のパターンとは明確に異なっており、成長の仕組み(発生生理学)の面からも鳥類とは独立した進化を遂げていたことを裏付けています。

第二に、ミクロラプトル類の化石では「骨同士のくっつき具合(癒合)」と「実際の年齢」が必ずしも一致しないため、見た目だけで子どもか大人かを判断せず、骨の内部構造を調べることが不可欠であるという研究手法上の大切な指針が示されました。

原鳥類は「空への多元的な実験場」だった

ノレルラプトルが示した「飛行装置の独立した組み立て」は、近年の生物力学(バイオメカニクス)の研究や、同時期に発表された最新の化石発見とも見事にパズルのように噛み合っています。

生物力学のハードルを越えた3つのグループ

2020年に中国科学院の裴睿(Rui Pei)博士やマイケル・ピットマン(Michael Pittman)博士らの研究チームが発表した包括的な生物力学研究では、原鳥類全体にわたって体重と翼面積の比率(翼面荷重)や揚力が計算されました。その結果、地面から飛び立つためのジャンプ力は肉食恐竜の祖先から受け継いだ強い後ろあしによって広く共有されていたものの、離陸後に「羽ばたいて飛び続ける(動力飛行)」ための物理的なハードルを越えることができたのは、「鳥類系統(Avialae)」「ミクロラプトル亜科」「ウネンラギア科(南米ゴンドワナ大陸などで進化したグループ)」の3系統に限られていたことが示されました。

裴博士自身も今回のノレルラプトルの研究成果について、「ミクロラプトル類が真の鳥類の初期段階とよく似た特徴を、全く異なる進化ルートを通じて獲得したことを実証しており、非鳥類恐竜と鳥類で羽ばたき飛行が独立して進化したという仮説を強力に支持する」と高く評価しています。2020年の研究が「どのグループが飛行のハードルに到達したか(結果)」を示したのに対し、今回の研究は「どのように異なる手順でそのハードルへと近づいたか(プロセス)」を解き明かしたといえます。

空ではなく地上を選んだ初期鳥類「ユエズオルニス」

さらに、原鳥類の進化が「地上から空への一方通行の道」ではなく、地上での狩り・滑空・羽ばたき飛行の間を多様に行き来する複雑な適応放散であったことを示すもう一つの発見が、2026年10月に報告されました。中国福建省のジュラ紀後期(約1億4,900万年前)の地層から発見された新種の原始的鳥類「ユエズオルニス・ヤンユアネンシス(Yuezhuornis yangyuanensis)」です。

ユエズオルニス(全長約50cm、推定体重821g)は、骨盤や足の骨の特徴から、進化系統樹において「始祖鳥(アーケオプテリクス)」よりも現生鳥類に近縁な鳥類(Avialae)と位置づけられました。それにもかかわらず、前あしが後ろあしより約3分の1も短く、広く開いた鎖骨や長い尾骨を持つなど、空を飛ぶことが不可能な構造をしていました。さらに、トロオドン類に似たギザギザの歯や、ヴェロキラプトルのように後方へ大きく反り返る後ろあし第2指を備え、地上での捕食生活に特化していたことが判明したのです。

表2:原鳥類(Paraves)における主な系統と飛行進化の多様性
主なグループ / 代表属 時代・主な発見地 翼とあしの構造 飛行特徴の進化順序・成長 推定される移動スタイル・生態
ミクロラプトル亜科
(Norellraptor, Microraptor, Zhongjianosaurus)
白亜紀前期(約1.2億年前・中国遼寧省九仏堂層ほか) 前あし+後ろあしに風切羽を持つ4翼構造。強固な足の甲と第2指の鎌状爪を保持。 手の指の短縮が初期に先行し、手首の結合と胸骨の伸長は後期に出現。3年以上かけ周期的に成長。 森林内での滑空および独立に獲得された羽ばたき飛行と、後ろあしを使った小動物の捕食。
鳥類系統(飛翔性グループ)
(エナンティオルニス類・真鳥類ほか)
ジュラ紀後期〜現在(九仏堂層などでミクロラプトル類と共存) 前あしが後ろあしより長く伸び、前あしの翼を主役として利用(2翼中心への集約)。 手首の結合と胸骨の大型化が初期に先行し、手の指の短縮は後期に出現。急速な骨成長へと進化。 持続的な羽ばたき飛行(動力飛行)の確立と、地球規模の空中環境への進出。
初期の飛べない鳥類
(Yuezhuornis yangyuanensis)
ジュラ紀後期(約1.49億年前・中国福建省) 始祖鳥より現生鳥類に近いが、前あしが後ろあしより約1/3短く、長い尾骨を持つ。 骨盤などは鳥類の特徴を示すが、前あし・胸の飛行装置を欠き、ギザギザの歯と反り返る第2指を保持。 飛行不可能な純粋な地上性ハンター(鳥類内部での飛行進化の多様性または二次的な喪失を示唆)。
ウネンラギア科
(Rahonavis, Unenlagiaほか)
白亜紀前期〜後期(南米パタゴニアなどゴンドワナ大陸) 鳥類系統の姉妹群と位置づけられ、長く伸びた前あしと鳥類的な肩・骨盤の一部を共有。 鳥類と一部の飛行関連特徴を共有しつつ、独自の進化ルートで体型を変化させた。 大型の地上走行種から、動力飛行の物理的ハードルに到達した小型種まで多様に進化。

結論:何度も繰り返された「空への挑戦」

今回の研究は、ノレルラプトル・バルスボルディの精緻な骨格と骨の年輪が明らかにしただけではありません。中生代の森林において、鳥類に近い羽毛恐竜たちはたった一つの軌道に乗って空を目指したのではなく、後ろあしでの狩りの維持や森の中での空間移動といったそれぞれの生活環境に合わせて、独自の手順で飛行装置を組み上げていました。脊椎動物の歴史上もっとも劇的な進化の一つである「恐竜の空中進出」は、一度きりの偶然の奇跡ではなく、羽毛と高い運動能力を備えた恐竜たちが異なるルートから繰り返し到達した「多元的な挑戦の結晶」だったのです。

引用・参考文献

  • Independent assembly of the flight apparatus in a non-avian dinosaur clade - Nature Portfolio, https://www.natureasia.com/ja-jp/research/highlight/15636
  • Wang, X., Cau, A., Kundrát, M. et al. Independent assembly of the flight apparatus in a non-avian dinosaur clade. Nature Communications 17, 10074 (2026). https://dinodata.de/bibliothek/pdf_i/2026/s41467-026-77804-6_dd.pdf
  • Bizarre four-winged dinosaur discovered in China - Discover Wildlife, https://www.discoverwildlife.com/dinosaurs/norellraptor-barsboldi-china
  • New Species of Four-Winged Dinosaur Unearthed in China | Sci.News, https://www.sci.news/paleontology/norellraptor-barsboldi-15101.html
  • Peer Review File: Independent assembly of the flight apparatus in a non-avian dinosaur clade, https://media.springernature.com/original/springer-static/esm/art%3A10.1038%2Fs41467-026-77804-6/MediaObjects/41467_2026_77804_MOESM3_ESM.pdf
  • Norellraptor Fossil Indicated Flight Evolved Independently Multiple Times - FossilEra / FossilGuy, https://www.fossilguy.com/news/norellraptor-barsboldi/index.htm
  • [Paleontology • 2026] Norellraptor barsboldi - Species New to Science, http://novataxa.blogspot.com/2026/10/norellraptor.html
  • 羽毛恐竜は、鳥への一本道ではない? 新種が問い直す「似た体」の進化 - note, https://note.com/learncurrent_17/n/n95d1726214fe
  • Newly Identified Norellraptor Could Reshape What We Know About Feathered Dinosaur Flight Evolution - Discover Magazine, https://www.discovermagazine.com/newly-identified-norellraptor-could-reshape-what-we-know-about-feathered-dinosaur-flight-evolution-49744
  • Complete Four-Winged Dinosaur From China Adds Evidence That Flight Anatomy Evolved More Than Once - Nature World News, https://www.natureworldnews.com/articles/73403/20260930/complete-four-winged-dinosaur-china-adds-evidence-that-flight-anatomy-evolved-more-once.htm
  • ジュラ紀の空ではなく地上を選んだ新種の鳥類化石を発見 - BigGoニュース, https://finance.biggo.jp/news/86b494db-138c-4568-bd5f-b770559b8e56
  • Norellraptor - Wikipedia, https://en.wikipedia.org/wiki/Norellraptor
  • A farmer in China's Liaoning province found a four-winged dinosaur - ECOticias, https://www.ecoticias.com/en/a-farmer-in-chinas-liaoning-province-found-a-four-winged-dinosaur-whose-lineage-evolved-57-bird-like-traits-in-a-different-order-than-birds-did-a-sign-its-flight-gear-was-built-independently/51961/
  • Independent assembly of the flight apparatus in a non-avian dinosaur clade - ResearchGate, https://www.researchgate.net/publication/415204106_Independent_assembly_of_the_flight_apparatus_in_a_non-avian_dinosaur_clade
  • A Four-Winged Dinosaur from China Reveals How Evolution Built Wings - ZME Science, https://www.zmescience.com/science/news-science/fuur-winged-dinosaur-flight-evolution/
  • Powered flight potential approached by wide range of close avian relatives - bioRxiv, https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.04.17.046169v1.full-text
  • Remarkable Fossil of a Feathered, Winged Dinosaur Further Hints That Flight Evolved Multiple Times - Smithsonian Magazine, https://www.smithsonianmag.com/smart-news/remarkable-fossil-of-a-feathered-winged-dinosaur-further-hints-that-flight-evolved-multiple-times-among-the-terrible-lizards-180989612/