スペインの恐竜 コンカベナトール

スペインの恐竜

Dinosaurs of Spain

イベリアの巨竜たちとスペインの恐竜研究

イベリア半島、とりわけ現在のスペイン領土は、中生代の研究において世界で最も重要な地域のひとつです。
かつてパンゲア大陸の分裂に伴い、ローラシア大陸とゴンドワナ大陸の狭間で複雑な多島海(アーキペラゴ)を形成していたこの地域は、恐竜の進化、特に島嶼環境における適応放散や大陸間の生物相交換を理解するための極めて重要な化石記録を提供しています。

かつてヨーロッパの恐竜研究といえばイギリス、ベルギー、ドイツが主導していましたが、過去30年間におけるスペインの古生物学の進展は目覚ましく、現在では「スペインの恐竜ルネサンス」とも呼べる黄金時代を迎えています。

特に、白亜紀(約1億4500万年前〜6600万年前)のイベリアプレートは現在のヨーロッパ大陸とは陸続きではなく、テチス海に浮かぶ巨大な島、あるいは一連の島々(イベリア・アーキペラゴ)でした。この島嶼環境により、限られた資源と隔離された環境で独自の進化を遂げた種が多く見られます。
また、イベリアは北のローラシア大陸と南のゴンドワナ大陸(アフリカ)を結ぶ「架け橋」としての役割も果たしており、アフリカ起源の系統と北半球起源の系統が混在する、他地域には見られない独特の恐竜相が形成されました。

巨竜たちの時代:ジュラ紀から白亜紀の竜脚類

スペインは、首の長い巨大草食恐竜である竜脚類(Sauropoda)の化石記録において、世界でも稀に見る連続性と多様性を誇っています。

ヨーロッパの巨人:トゥリアサウルス (Turiasaurus)

トゥリアサウルスの骨格化石
ヨーロッパ最大級の恐竜トゥリアサウルス(2015年撮影)

2006年、テルエル県リオデバから記載されたTuriasaurus riodevensis(トゥリアサウルス・リオデベンシス)は、ヨーロッパ大陸で発見された恐竜の中で最大級のサイズを誇ります。
全長は20メートルを超え、体重は30トン以上と推定されています。彼らは「トゥリアサウルス類」という、ジュラ紀から初期白亜紀にかけてヨーロッパで繁栄した独自のグループに属しています。

スペイン恐竜研究の夜明け:アラゴサウルス (Aragosaurus)

Aragosaurus(アラゴサウルス、「アラゴンのトカゲ」の意)は、1987年にスペインで初めて科学的に記載された恐竜です。
初期白亜紀に生息していたマクロナリア類で、全長は約18メートル。幅広でスプーン状の歯を持ち、当時の植生であった針葉樹などを食べていました。

ガルンバティタン (Garumbatitan) とエウロパティタン (Europatitan)

近年の発見も続いています。2023年に記載されたGarumbatitan morellensis(ガルンバティタン)は、大腿骨の長さが約2メートルに達する巨大な竜脚類です。
また、2017年に記載されたEuropatitan eastwoodi(エウロパティタン)は、非常に長い首が特徴です。ちなみに種小名のeastwoodiは、発見地近くで映画撮影を行った俳優クリント・イーストウッドに献名されたものです。

アフリカとの架け橋:デマンダサウルス (Demandasaurus)

ブルゴス県で発見されたDemandasaurus(デマンダサウルス)は、レッバキサウルス科に属しています。このグループは主にアフリカや南米で知られており、ヨーロッパでの発見は極めて珍しいものです。
この恐竜の存在は、白亜紀のある時期にアフリカからヨーロッパへ渡るルートが存在し、恐竜の移住が行われていたことの証拠と考えられています。

表:スペイン産主要竜脚類の比較データ

属名 記載年 地質年代 推定全長 特徴
トゥリアサウルス
Turiasaurus
2006 ジュラ紀末/白亜紀初 30m級 欧州最大級の竜脚類。
アラゴサウルス
Aragosaurus
1987 初期白亜紀 約18m スペインで最初に記載された恐竜。
ガルンバティタン
Garumbatitan
2023 初期白亜紀 25m以上 極めて太い大腿骨を持つ巨人。
エウロパティタン
Europatitan
2017 初期白亜紀 約27m クリント・イーストウッドに献名。極長の首。
デマンダサウルス
Demandasaurus
2011 初期白亜紀 10-12m アフリカ系系統の恐竜。大陸間の関連を示唆。

湿地の支配者たち:ラス・オヤスの獣脚類

クエンカ県にある「ラス・オヤス(Las Hoyas)」遺跡は、約1億2500万年前の湿地帯を保存した場所で、骨だけでなく皮膚や羽毛、内臓などの軟組織まで保存されている世界的にも貴重な化石産地です。

奇妙な背中を持つ狩人:コンカベナトール (Concavenator)

コンカベナトール(コンカヴェナトル)の全身骨格化石
コンカベナトール(コンカヴェナトル) 全身骨格化石(2015年撮影)

2010年に記載されたConcavenator(コンカベナトール、「クエンカの背中の曲がった狩人」の意)は、スペインを代表する獣脚類です。
腰の直前にある椎骨が長く伸び、背中に尖った「こぶ」あるいは「ヒレ」のような構造を持っていました。これがディスプレイ用なのか、体温調節用なのかはまだ議論されています。
また、前腕には「羽柄瘤(うへいりゅう)」に似た隆起が見つかっており、腕に飾り羽を持っていた可能性があります。

歯だらけの模倣者:ペレカニミムス (Pelecanimimus)

同じくラス・オヤスから発見されたPelecanimimus(ペレカニミムス)は、オルニトミムス類(ダチョウ恐竜)の仲間ですが、進化して歯を失った後の種とは異なり、顎に約220本もの微細な歯を持っていました。
喉の下にはペリカンのような袋状の構造があったと考えられています。

ラス・オヤスでは恐竜以外にも重要な発見があります。
例えば、世界最古級の被子植物(花を咲かせる植物)であるMontsechia(モンセキア)や、毛皮や内臓の痕跡が残った哺乳類Spinolestes(スピノレステス)などが発見されており、当時の生態系を鮮明に伝えています。

スピノサウルスの楽園

近年の研究により、イベリア半島がスピノサウルス科の恐竜にとって重要な場所であったことがわかってきました。ワニのような顔を持ち、水辺で魚を食べていた彼らは、スペインの沿岸湿地帯で繁栄していました。

かつてはイギリスのバリオニクスと同種とされることが多かったのですが、現在では独自の種であることが判明しています。

  • リオハベナトリクス (Riojavenatrix):2024年にラ・リオハ州で記載された新種。
  • プロタトリティス (Protathlitis):2023年記載。「チャンピオン」を意味し、地元サッカークラブの優勝を記念して命名されました。
  • バリボナベナトリクス (Vallibonavenatrix):南半球のスピノサウルス類に近い特徴を持っています。

白亜紀の黄昏:ロ・ウエコの巨人たち

白亜紀後期(約7500万年前〜)のスペインは、ティタノサウルス類が支配する世界でした。
2007年、高速鉄道AVEの建設工事中にクエンカ県の「ロ・ウエコ(Lo Hueco)」で巨大な化石密集層が発見されました。12,000点を超える化石が見つかり、2024年には新種Qunkasaura(クンカサウラ)が記載されています。

この時代のイベリア半島には、島で進化した固有の系統と、外部から渡ってきた系統が共存していたことが明らかになっています。これは、当時のイベリアが孤立した島であると同時に、海面変動によって時折開かれる「回廊」を通じて新たな恐竜を受け入れる場所でもあったことを示しています。

古生物学インフラ:博物館と「恐竜ルート」

スペインは、発掘された化石を地域資源として活用し、素晴らしい展示施設を整備しています。

ディノポリス (Dinópolis)

アラゴン州テルエル県にある、科学博物館とテーマパークを融合させた複合施設です。トゥリアサウルスの全身骨格や、ティラノサウルスのアニマトロニクスなどが見どころです。県内にサテライト施設が点在しており、発掘現場近くで学ぶことができます。

カスティーリャ=ラ・マンチャ古生物学博物館 (MUPA)

クエンカ市にあるこの博物館は、ラス・オヤスとロ・ウエコのコレクションを収蔵しています。コンカベナトールの実物化石「Pepito」は必見です。

アストゥリアス・ジュラ紀博物館 (MUJA)

「恐竜海岸」と呼ばれるアストゥリアス州の海岸沿いに位置し、建物自体が巨大な恐竜の足跡の形をしています。世界最大級の足跡化石コレクションや、ユニークなティラノサウルスの展示で有名です。

表:スペインの主要古生物学博物館ガイド

博物館名 所在地 主な展示
ディノポリス
Dinópolis
テルエル トゥリアサウルス、アラゴサウルスなど
MUPA (古生物学博物館)
Museo de Paleontología de Castilla-La Mancha
クエンカ コンカベナトール、クンカサウラなど
MUJA (ジュラ紀博物館)
Museo del Jurásico de Asturias
アストゥリアス 足跡化石、交尾するT-Rexなど
マドリード国立自然科学博物館
MNCN
マドリード ディプロドクス(レプリカ)、メガテリウムなど

結論

スペインの恐竜研究は、単に新しい化石が見つかったというだけでなく、中生代のイベリア半島という「島」が、生命の進化実験室としてどのように機能したかを解き明かす壮大な物語です。

コンカベナトールの背中のこぶ、トゥリアサウルスの巨体、そして大陸間を移動したスピノサウルス類たち。現地の博物館を訪れれば、これらの化石が語るドラマチックな進化の歴史を肌で感じることができるでしょう。