恐竜ニュース:気候変動の真犯人

気候変動の真犯人

恐竜絶滅を引き起こした衝突体の組成

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序論:恐竜を絶滅させた小惑星の謎と最新研究

約6600万年前の中生代白亜紀と新生代古第三紀の境界において、恐竜をはじめ、翼竜やアンモナイトなど、地球上の全生物の約75%が絶滅する出来事が起こりました。現在では、メキシコのユカタン半島(チクシュルーブ)に衝突した直径10〜15kmの巨大な小惑星が、この大絶滅の主要な原因であると考えられています。

この巨大な隕石の衝突は、直接的な破壊だけでなく、巻き上げられた莫大な量の塵が大気を覆って太陽光を遮断し、「衝突の冬(Impact Winter)」と呼ばれる深刻な寒冷化を引き起こしました。これが、多くの生物が絶滅した最大の理由とされています。

K-Pg境界とは:
白亜紀(Kreide)と古第三紀(Paleogene)の境界のことです。この時期の地層からは、地球にはほとんど存在しないイリジウムなどの元素が異常に高い濃度で発見されており、巨大隕石が衝突した証拠とされています。

しかし、これほど明確な証拠がありながら、「その小惑星がどんな成分でできていて、宇宙のどこからやってきたのか」という謎は、長い間解明されていませんでした。なぜなら、衝突した隕石のほとんどは、その強大なエネルギーで一瞬にして蒸発し、原形をとどめる破片がほとんど残っていなかったからです。

そんな中、2026年7月に『Science Advances』誌において、Georgy V. Makhatadze氏らの国際研究チームが、この長年の謎に対する画期的な答えを発表しました。

分析手法:宇宙の痕跡を探る「ニッケル同位体」

小惑星衝突のイメージイラスト
巨大隕石衝突のイメージ
Gemini Generated Image

隕石が完全に蒸発してしまい、地球の岩石と混ざり合ってしまった状態から、元の隕石の種類を特定するのは非常に困難です。そこで研究チームは、「ニッケル(Ni)」という元素の「同位体」に注目しました。

同位体とは:
同じ元素でも、中性子の数が異なり、わずかに重さが違うもののこと。宇宙空間のどこで生まれたかによって、この同位体の割合(比率)に固有の「指紋」のような違いが生まれます。

ニッケルは隕石に豊富に含まれる元素であり、地球の表面にある岩石と比べると、宇宙から来た物質に極端に多く含まれています。研究チームは、超高精度な質量分析計(MC-ICP-MS)を使い、地層のサンプルからニッケルだけをきれいに分離して分析することで、宇宙からやってきた物質の「化学の指紋」を読み取ることに成功しました。

分析結果:チクシュルーブ衝突体の正体は超希少な「COコンドライト」

研究チームは、隕石の混ざり具合を調べるため、ヨーロッパにある5つの異なる場所からK-Pg境界の地層サンプルを採取しました。そして、それらを様々な種類の隕石のデータと比較しました。

表1:分析されたK-Pg境界サンプルの特性
サンプル採取地 国名 推定される隕石成分の含有率
Stevns Klint デンマーク 約5% (隕石の特徴が最も強く出ている)
Caravaca スペイン 約5%
Fornaci イタリア 約1%
Frontale イタリア 約1%
Furlo イタリア 約0.5% (地球の岩石の特徴に近い)

採取したサンプルと様々な隕石を比較分析した結果、衝突した小惑星の正体は、炭素質コンドライトの中でも珍しい「COコンドライト(Ornans型)」であることが分かりました。

炭素質コンドライトとは:
水や有機物を含む原始的な隕石のグループです。日本の探査機「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウのサンプルも、このグループ(CIコンドライト)の仲間であることがわかっています。

COコンドライトは、炭素質コンドライトの中でも水や硫黄といった揮発しやすい成分が極端に少ない、「とても乾燥した」隕石です。地球で見つかる隕石全体の中で炭素質コンドライト自体がわずか5%程度しかなく、COコンドライトはその中でもさらにごく一部という、天文学的にも超希少な隕石なのです。

寒冷化の真犯人は隕石ではなく「シリカダスト」

この「極めて乾燥した隕石だった」という発見は、恐竜絶滅の引き金となった気候変動メカニズムについてのこれまでの常識を覆すものでした。

大量の硫黄はどこから来たのか?

これまで、「衝突の冬」による深刻な寒冷化は、隕石そのものが大量の「硫黄」を地球に持ち込み、それが大気中で硫酸エアロゾルとなって長期間太陽光を遮ったためだと考えられていました。

しかし、衝突したのが硫黄をほとんど含まないCOコンドライトだったとすると、隕石自身から放出された硫黄の量は想定よりはるかに少なくなります。つまり、気候変動を引き起こした大量の硫黄は隕石から来たのではなく、隕石が衝突したメキシコのユカタン半島にあった岩石(石膏などの蒸発岩)が、強大なエネルギーで気化して大気中に放出されたものだったのです。

光合成を止めた細かい塵(シリカダスト)

では、硫黄のエアロゾルだけが寒冷化の原因だったのでしょうか? 最新のシミュレーション研究によると、それだけではありませんでした。

衝突によって地球の地殻から巻き上げられた「シリカ(珪酸塩)ダスト」が、重要な役割を果たしていたことが分かってきました。このダストは非常に細かいサイズであったため、最長で約15年間も成層圏に留まり続けました。この巨大な塵のベールが太陽光を完全に遮断し、地球の平均気温を最大15℃も急降下させたのです。

今回の「硫黄に乏しいCOコンドライト」という発見は、寒冷化と光合成停止(食物連鎖の崩壊)を引き起こした最大の主役が、隕石そのものではなく「地球から巻き上げられた細かいシリカダスト」であったとする最新の説を、化学的な側面から強力に裏付ける結果となりました。

宇宙のロマン:なぜ外太陽系の珍しい隕石が地球に?

今回の研究成果は、太陽系の成り立ちや天体の動きについても興味深い事実を教えてくれます。

COコンドライトのような炭素質の小惑星は、太陽系ができたばかりの頃、木星の軌道よりも外側の遠く冷たい場所で形成されたと考えられています。実は、過去5億年間に地球に衝突した他の大きな隕石(巨大クレーターを作ったもの)は、すべて火星と木星の間など、もっと地球に近い場所(内太陽系)で生まれた岩石質の小惑星(S型)でした。現在地球に落ちてくる隕石の約80%もこのS型です。

それにもかかわらず、6600万年前という比較的「最近」の時代に、木星より外側で生まれた超希少な天体がピンポイントで地球に直撃したというのは、天文学的に見ても「極めて不運な偶然」だったと言えます。

おそらくこの小惑星は、長い間安全な軌道に留まっていましたが、木星の重力の影響や、他の小惑星との衝突など何らかの理由で軌道を外れ、百万分の一の確率で地球に向かって飛んできてしまったと推測されています。

結論と今後の展望

今回の研究は、微小なニッケル同位体を分析することで、恐竜を絶滅させた小惑星の正体が超希少な「COコンドライト」であることを突き止めました。

これにより、絶滅の引き金となった気候変動の主役が、隕石由来の硫黄ではなく、地球の岩石から巻き上げられた「シリカダスト」であったことが強く裏付けられました。1億年以上も前の出来事を、原子レベルのわずかな痕跡から宇宙規模の動きへとつなげることに成功したのです。

この新しい分析手法は、今後、他の時代に起きた隕石衝突や大量絶滅の原因を探る上でも、大いに役立つと期待されています。

引用・参考文献

  • Dinosaurs May Have Been Wiped Out by 'Oddball' Space Rock | Sci.News, https://www.sci.news/space/chicxulub-c0-chondrite-14927.html
  • The origin of Cretaceous - Semantic Scholar, https://pdfs.semanticscholar.org/aa18/9299366726d6d8da73cb5b36a905933a6ecb.pdf
  • Researchers Identify Class Of Oddball Meteorite That Killed Earth's Dinosaurs - Astrobiology, https://astrobiology.com/2026/07/20/researchers-identify-class-of-oddball-meteorite-that-killed-earths-dinosaurs/
  • The origin of Cretaceous-Palaeogene impactor revealed by nickel isotopes - PMC - NIH, https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC13378546/
  • Chicxulub impact winter sustained by fine silicate dust | Request PDF - ResearchGate, https://www.researchgate.net/publication/375088454_Chicxulub_impact_winter_sustained_by_fine_silicate_dust
  • Ruthenium isotopes show the Chicxulub impactor was a carbonaceous-type asteroid, https://gardenia-buffalo-679m.squarespace.com/s/62_FischerGoddeetal_2024_Science.pdf