イギリス南部の白亜紀前期の地層(ウィールド・クレイ層)から、新属新種のイグアノドン類「パルドハドロス・プラウドラヴィ(Paludohadros proudlovii)」が発見・命名されました。
2001年の発掘以来、25年間にわたってロンドン自然史博物館の収蔵庫で「イグアノドンの子ども」や「マンテリサウルス」と考えられていたこの化石は、最新のCTスキャン調査によって以下の事実を明らかにしました。
- 25年越しの新種特定: 硬い岩石に隠されていた歯や顎の特徴をマイクロCTで透視し、初期のハドロサウルス上科の新種であることを証明
- 「ビッグ・イギー」の正体: 全長5mの標本がまだ成長途中の若い個体であり、大人になると全長8〜10mに達する大型植物食恐竜であったと推定
- バリオニクスとの直接的な関わり: 有名な肉食恐竜バリオニクスの発見地点からわずか100mの場所で産出し、骨格のそばからバリオニクスの歯も発見
本ページでは、パルドハドロスの発見の背景や体の特徴、そしてイギリスの恐竜進化史を塗り替える系統的意義について詳しく解説します。
論文概要と新種記載の背景
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2026年10月26日、古生物学の専門学術誌『Journal of Systematic Palaeontology』において、イングランド南部の白亜紀前期の地層であるウィールド・クレイ層(Weald Clay Formation)から産出したイグアノドン類の新属新種として、「パルドハドロス・プラウドラヴィ(Paludohadros proudlovii)」が記載されました。
本研究は、ロンドン自然史博物館(NHMUK)およびブラジルのサンパウロ大学(USP)の博士課程研究者であるリカルド・J・サカモト氏を筆頭著者とし、ポーツマス大学のジェレミー・ロックウッド博士、ロンドン自然史博物館のポール・バレット教授、そして同館およびバーミンガム大学のスザンナ・メイドメント教授らが参加する国際共同研究チームによって行われました。分類としては、鳥盤目・鳥脚類・イグアノドン類に属し、後の白亜紀後期に繁栄したカモノハシ恐竜(ハドロサウルス科)へとつながる系統の初期に位置する「基盤的なハドロサウルス上科(Hadrosauroidea)」として位置づけられています。
学名の由来:「沼地のハドロサウルス類」
属名の「Paludohadros(パルドハドロス)」は、ラテン語で「沼地」や「湿地」を意味する「palūs」と、古代ギリシャ語で「頑丈な」「ずんぐりした」を意味しハドロサウルス類の学名によく使われる「hadrós」を組み合わせたもので、「沼地のハドロサウルス類」という意味を持っています。この名前は、白亜紀前期バレミアン期(約1億2500万年前)のウィールド・クレイ層が泥の多い湿地帯であったことと、発掘地であるスモークジャックス採掘場(Smokejacks Pit)が現在でも非常に泥深い場所であるという二つの事実に由来しています。
一方、種小名の「proudlovii(プラウドラヴィ)」は、化石が見つかったサリー州オックリー近郊のユーハースト煉瓦・瓦工場(旧称スモークジャックス・ブリックワークス)の元工場長であった故ウィリアム(ウィル)・プラウドラヴ氏への献名です。プラウドラヴ氏は採掘現場での化石調査を強く支援していましたが、この標本が発掘される直前の2000年に35歳という若さで急逝しており、自然史研究への多大な貢献を称えて命名されました。
| 項目 | 詳細データ |
|---|---|
| 学名 | Paludohadros proudlovii(パルドハドロス・プラウドラヴィ) |
| 掲載誌・公表日 | Journal of Systematic Palaeontology(2026年10月26日公開) |
| 分類学的位置 | 恐竜上目・鳥盤目・鳥脚類・イグアノドン類・ハドロサウルス上科(基盤的系統) |
| ホロタイプ標本 | NHMUK PV R 16396(部分的な頭骨、下顎骨、脊椎、肋骨、右肩帯、両前肢の大部分、右坐骨、両後肢の一部、尾椎など) |
| 参照標本 | スモークジャックス産の上腕骨4点・脛骨4点(1950年代報告)、ワイト島産の大型の左上角骨(NHMUK PV R 105a) |
| 発見地・産出層 | イングランド南部サリー州オックリー近郊 スモークジャックス採掘場(ウィールド・クレイ層上部) |
| 時代 | 白亜紀前期バレミアン期(約1億2500万年前) |
| 推定体格・成長段階 | ホロタイプは若い個体(亜成体)で全長約5m、推定体重1.5〜2.0トン。成体は全長8〜10mに達したと推定 |
標本史と「ゴミ箱分類群」からの脱却:マイクロCTによるブレイクスルー
パルドハドロスの基準となるホロタイプ標本(標本番号:NHMUK PV R 16396)は、2001年7月22日、英国地質学者協会の野外調査中にジェフ・トイ氏によって発見されました。その後、ロンドン自然史博物館の支援のもとで2週間にわたる発掘作業が行われ、同館へ寄贈されました。しかし、この化石は四半世紀もの間、新種として気づかれることなく博物館の収蔵庫に眠り続けていました。2001年の発見当初や2008年の研究では「イグアノドンの幼体(子ども)」として扱われ、さらに2021年の研究レビューでは近縁の「マンテリサウルス」へと分類されていたのです。
なぜ25年間も新種だと分からなかったのでしょうか。その背景には、イギリスの古生物学において19世紀から20世紀にかけて根強く残っていた「ゴミ箱分類群」の問題があります。
ゴミ箱分類群(wastebasket taxon)とは:
特徴がはっきりしない化石や、十分に比較・調査されていない標本を、すでに知られている有名な種へひとまとめに分類してしまう慣行のことです。イギリスのウィールデン層群から見つかる大型の植物食恐竜(鳥脚類)の化石は、長年にわたり、がっしりした体格なら「イグアノドン・ベルニサルテンシス」、ほっそりした体格なら「マンテリサウルス・アザーフィールデンシス」という、わずか2種のどちらかに機械的に割り当てられてきました。そのため、細かな骨の形の違いが「個体差」や「年齢の違い」として片付けられ、本当の種類の多様性が隠されてしまっていたのです。
マイクロCTスキャンによる非破壊調査と過去標本の統合
過去10年間、ロンドン自然史博物館とポーツマス大学の研究チームは、この「2種だけ」という定説を見直すため、過去に集められたイグアノドン類の標本を最初から詳しく調べ直すプロジェクトを進めてきました。サカモト氏らが今回の標本(NHMUK PV R 16396)を再調査した際、頭骨の重要なパーツのいくつかは、菱鉄鉱(りょうてっこう)という鉄分を多く含む非常に硬い岩石に埋まったままでした。道具を使って岩石を削り取ろうとすると、壊れやすい頭骨の化石を傷つけてしまう危険が高かったのです。
そこで研究チームは、博物館のイメージング専門家であるブレット・クラーク氏を中心に、高解像度のX線マイクロCTスキャンを導入しました。この技術によって化石を傷つけることなく岩石だけをデジタル上で取り除き、内部に隠されていた細かな頭骨のパーツや、まだ歯茎の中から生え変わる前の新しい歯(代生歯)を立体的に復元することに成功したのです。
さらに、パルドハドロスの特徴がはっきりしたことで、過去に同じ採掘場から見つかり、1953年と1956年に論文で報告されていた4本の上腕骨(二の腕の骨)と4本の脛骨(すねの骨)も、パルドハドロスの化石であることが分かりました。加えて、ワイト島から過去に発見されていた、はるかに大きな個体の下顎の骨の一部(上角骨:NHMUK PV R 105a)も同じ種であることが判明し、70年以上前に採集されていた博物館の標本たちが結びつく結果となりました。
パルドハドロスの解剖学的特徴と成長段階の解明
マイクロCTによる頭骨内部の観察と、全身の骨の精密な計測によって、パルドハドロスを他のイグアノドン類から区別する独自の特徴が特定されました。これらの特徴は、植物をすり潰す顎の仕組みから、泥の多い地面を歩くための手足の骨にまで広く及んでいます。
固有派生形質(Autapomorphy)とは:
ある生物のグループや種だけが進化の過程で独自に獲得した、他の種には見られない固有の特徴のことです。古生物学では、化石にこの「固有派生形質」や「特徴の独自の組み合わせ」が確認できるかどうかが、新属・新種として認められるための最も重要な基準となります。
| 部位 | パルドハドロスに見られる形態的特徴 | 分類上の重要性と機能的な役割 |
|---|---|---|
| 下顎の歯(歯骨歯) | 歯の内側(舌側)の表面に、2本の二次的な縦の隆起(スジ)と、複数の細かい副隆起を備える。 | 独自の識別特徴。二次隆起が1本しかないイグアノドンやマンテリサウルスと異なり、歯の表面積を広げて硬い植物繊維をすり潰す効率を高めた適応。 |
| 下顎後方の骨(上角骨) | 上に向かって突き出た突起(外側突起)を持ち、前方の突起の縁から外側へずれて浅い溝で隔てられる。 | 固有派生形質。顎を閉じる筋肉の付き方と「てこの作用」を変化させ、強力な噛む力を生み出す構造。 |
| 額の骨(前頭骨) | 裏側(脳に近い面)が湾曲した縦の隆起によって二分され、左右が合わさると砂時計のような輪郭を作る。 | 比較識別特徴。この裏側の隆起がなく表面が滑らかなコンプトナトゥスやマンテリサウルスから明確に区別される。 |
| 二の腕の骨(上腕骨) | 筋肉が付く突起(三角胸筋稜)が強く内側へ曲がり、肘に近い内側の関節面に胴体側へ延びる隆起がある。 | 独自の識別特徴。前足でしっかりと体重を支え、四足歩行するときの負荷に耐えるための適応。 |
| 骨盤の骨(坐骨) | 骨の軸が後ろの下方へ湾曲し、先端に大きく広がった「ブーツ状」の突起を持つ。根元の外側に突き出た特有の稜(スジ)がある。 | 固有派生形質。骨盤まわりや後ろ足を後ろへ引く筋肉が独自の発達をしていたことを示す。 |
| すねの骨(脛骨) | 膝(ひざ)の関節に近い上端の内側と外側に、目立つ骨のコブ(隆起)が存在する。 | 独自の識別特徴。膝の靭帯(じんたい)が強く結びつく場所として機能し、泥深い湿地での移動を支えた構造。 |
咀嚼(そしゃく)能力の高度化と四足歩行への適応
パルドハドロスの体の特徴で特に注目されるのは、「植物を噛み砕く能力の進化」と「四足歩行への適応」が同時に見られる点です。下顎の歯の内側には、中心となる太いスジ(主隆起)のほかに、2本の二次隆起と複数の細かいスジが走っています。二次隆起が1本しか見られないイグアノドンなどと比べて歯のすり潰し面が複雑になっており、下顎の後ろにある上角骨の独自の突起と連動して、湿地帯に生える硬いシダ類や針葉樹の葉を力強くすり潰していたと考えられます。また、前足の上腕骨や後ろ足のすねの骨(脛骨)には筋肉や靭帯が強く結びつく突起が発達しており、ぬかるんだ泥の湿地で重い体を支えて歩くのに適していました。
ホロタイプは成長途中の若者!成体は全長8〜10mの巨体に
骨の成長段階を調べた結果、ホロタイプ標本(NHMUK PV R 16396)は死んだ時点で全長約5メートル、推定体重1.5〜2.0トン(現在のサイや大型のカバに匹敵する大きさ)に達していたものの、背骨のパーツ(神経弓と椎体)がまだ完全にくっついていないことや、骨の表面の質感、内部の組織構造から、まだ盛んに成長している途中の若い個体(亜成体または幼体)であったことが証明されました。
驚くべきことに、この若い個体の太ももの骨(大腿骨)の長さはすでに63cmに達していました。これは、大人のマンテリサウルスの大腿骨(57cm)をすでに上回っています。さらに、ワイト島で見つかったパルドハドロスの下顎の骨(NHMUK PV R 105a)がホロタイプよりはるかに巨大な個体のものだったことを合わせると、完全に大人になったパルドハドロスはホロタイプの約2倍にあたる全長8〜10メートルにまで成長していたと結論づけられました。
系統解析と古生態学:背中の帆の収斂進化とバリオニクスとの関係
研究チームは、パルドハドロスが恐竜の進化の枝分かれ(系統樹)のどこに位置するのかを調べるため、最新のデータを用いて系統解析を行いました。その結果、イギリスの白亜紀前期における恐竜の進化と生態系について、極めて重要な発見がもたらされました。
イスティオラキスとの姉妹群関係と「背中の帆」の収斂進化
解析の結果、パルドハドロスはハドロサウルス上科の最も初期に枝分かれしたグループに属し、2025年にワイト島から発表されたばかりの背中に帆を持つイグアノドン類「イスティオラキス(Istiorachis macarthurae)」と最も近い親戚(姉妹群)であることが判明しました。さらにこの2種は、イギリスのククフェルディア(Kukufeldia)や中国のシュウーロン(Xuwulong)とともに、初期ハドロサウルス上科のまとまったグループを形成しています。
この発見は、イスティオラキスの進化的な位置づけを大きく書き換えました。2025年にイスティオラキスが発表された当初は、背骨の突起が長く伸びた「背中の帆」の形から、北アフリカのオウラノサウルス(Ouranosaurus)に近縁ではないかと議論されていました。しかし、パルドハドロスを加えて再解析した結果、イスティオラキスはオウラノサウルスとは系統的に遠く離れており、パルドハドロスの直接の姉妹群であることが示されたのです。
収斂進化(しゅうれんしんか / Convergent evolution)とは:
系統的に異なるグループ(血縁関係が遠い生物同士)が、同じような環境への適応やディスプレイ(仲間へのアピール)などの目的のために、独立してよく似た体の形を進化させる現象です。今回の系統解析により、オウラノサウルス、ヒプセロスピヌス、モレラドン、そしてイスティオラキスに見られる「背中の帆」は、単一の祖先から受け継いだものではなく、複数の系統で別々に進化(収斂進化)した特徴であることが強く裏付けられました。
ウィールド・クレイ層とウェセックス層の環境の違い
パルドハドロスは、ウィールド・クレイ層から正式に命名された最初かつ唯一のイグアノドン類です。興味深いことに、このウィールド・クレイ層と、ほぼ同じ時代(約1億2500万年前)の地層とされるワイト島のウェセックス層(Wessex Formation)とでは、生息していたイグアノドン類の顔ぶれがほとんど重なっていません。ウェセックス層からはブライトストネウス、コンプトナトゥス、イスティオラキス、マンテリサウルスなど多様な種が見つかっていますが、ウィールド・クレイ層からはパルドハドロスしか確認されていないのです(ワイト島で見つかった1点の下顎の骨のみが唯一の共通点です)。
この違いについて研究チームは、二つの地層が堆積した時代にわずかなズレがあった可能性とともに、当時の環境の違いによる「すみ分け(ニッチ分割)」が起きていた可能性を指摘しています。ウェセックス層が森林火災や洪水がたびたび起こる温暖でやや乾燥した平野だったのに対し、ウィールド・クレイ層は針葉樹林とシダ類に覆われた一年中泥深い湿地や浅い湖の環境であり、それぞれの環境に特化した別々の恐竜たちが暮らしていたと考えられます。
大型獣脚類バリオニクスとの直接的なつながり
古生態学の観点から最も注目を集めているのが、有名な大型肉食恐竜(獣脚類)「バリオニクス・ウォーカーリ(Baryonyx walkeri)」との関係です。パルドハドロスのホロタイプ標本は、1983年にバリオニクスのホロタイプ標本が発見された場所からわずか約100メートル西の、全く同じ地層(層準)から掘り出されました。さらに、2001年にパルドハドロスを発掘した際には、骨格のすぐそばからバリオニクスの抜けた歯が2本発見されており、パルドハドロスの死骸がバリオニクスによって食べられた可能性が高いことが分かっています。
バリオニクスの化石は、胃があった場所から古代魚(シェーンスティア)のウロコとともに、胃酸で溶けた若いイグアノドン類の骨が「最後の食事」として見つかったことで有名です。同じ場所・同じ時代に生きていたイグアノドン類がパルドハドロスであったと判明したことで、バリオニクスとパルドハドロスの間に「食べる・食べられる」という直接的な食物連鎖のつながりがあったことが鮮明に浮かび上がりました。
著名な古生物学者および学術コミュニティの反応
2026年10月26日の論文公開直後から、この研究は世界の古生物学者たちの間で大きな話題となりました。研究者たちのコメントや議論からは、単なる新種発見にとどまらない重要な意義が見えてきます。
メイドメント教授による「ビッグ・イギー」の正体に関する新仮説
本研究の責任著者であるスザンナ・メイドメント教授は、今回の発表にあたって非常に興味深い問題提起を行いました。長年、イギリスの発掘現場や研究者の間では、ウィールデン層群から見つかる大型で頑丈なイグアノドン類の化石は通称「ビッグ・イギー(Big Iggy=大型のイグアノドン・ベルニサルテンシス)」と呼ばれ、小型でほっそりしたマンテリサウルスと区別されてきました。
しかし、今回ウィールド・クレイ層から見つかったパルドハドロスが、まだ若い個体でありながら全長5メートルに達し、大人になれば全長8〜10メートルに巨大化することが判明したため、メイドメント教授は「これまでウィールド・クレイ層で『ビッグ・イギー(大型のイグアノドン)』と信じられてきた恐竜の正体は、実はイグアノドンではなく、パルドハドロスの成体だったのではないか?」と提起したのです。また、バリオニクスとの関係についても、「バリオニクスの胃の中の骨がどの種かまでは断定できないものの、若いパルドハドロスの死骸をあさっていたか、機会があれば狩りをしていた可能性がある」と現実的なシナリオを語っています。
「博物館ダークデータ」の再評価と世界の研究者からの反響
共著者のポール・バレット教授はパルドハドロスを「ウィールデン動物相への素晴らしい追加」として歓迎し、筆頭著者のリカルド・サカモト氏は「博士課程の研究として、これからロンドン自然史博物館に収蔵されているイグアノドン類のコレクション全体を総点検し、まだ気づかれていないさらなる新種恐竜を見つけ出したい」と抱負を語っています。近年相次いでいるイギリスの新種恐竜の発見(2021年のブライトストネウス、2024年のコンプトナトゥス、2025年のイスティオラキス、そして2026年のパルドハドロス)は、博物館の収蔵庫に眠る過去の標本(ダークデータ)を最新技術で見直すプロジェクトがいかに有効であるかを証明しています。
さらに、メリーランド大学のトーマス・ホルツ博士、北米の下部白亜系鳥脚類研究の第一人者であるユタ州立古生物学者のジム・カークランド博士、サウサンプトン大学のダレン・ネイシュ博士など、世界中の著名な研究者からも即座に肯定的な反応が寄せられました。同時に、新属が次々と独立したことで、長年「大型の鳥脚類」の受け皿となってきた「イグアノドン・ベルニサルテンシスそのものの定義を現代の基準で厳密にやり直す必要がある」という新たな研究課題も浮き彫りになっています。
| 研究者名・所属 | 役割・専門領域 | パルドハドロス論文に対する主な見解と学術的意義 |
|---|---|---|
| スザンナ・メイドメント教授 (ロンドン自然史博物館 / バーミンガム大学) |
論文責任著者 鳥盤類の分類・進化 |
若い個体で全長5mに達する本種こそが、ウィールド・クレイ層で長年「ビッグ・イギー(大型イグアノドン)」と呼ばれてきた恐竜の正体である可能性を提起。バリオニクスによる幼体捕食や死骸利用の可能性を指摘。 |
| ポール・バレット教授 (ロンドン自然史博物館) |
論文共著者 恐竜類全般の進化・古生態学 |
ウィールデン層群の恐竜の多様化を歓迎。博物館の収蔵標本(ダークデータ)の再調査が、恐竜全体の分類の精度を飛躍的に高めていることを強調。 |
| リカルド・J・サカモト氏 (ロンドン自然史博物館 / サンパウロ大学) |
論文筆頭著者 イグアノドン類の体系学 |
25年間未同定だった標本からの新種特定を報告。1950年代の標本やワイト島産標本の統合に続き、博物館のイグアノドン類コレクション全体の総点検によるさらなる新種発見を展望。 |
| トーマス・R・ホルツ博士 (メリーランド大学) |
外部の著名研究者 恐竜体系学の世界的権威 |
公開当日に「初期分岐ハドロサウルス上科の新属新種」として速報・拡散。ハドロサウルス上科の初期進化におけるヨーロッパの標本の重要性を国際的に発信。 |
| ジム・カークランド博士 (ユタ州地質調査所) |
外部の著名研究者 白亜紀前期の鳥脚類の権威 |
記載論文を北米および国際コミュニティへ共有。ヨーロッパのウィールデン層群と北米の地層(シーダー・マウンテン層など)の恐竜相を比較する上で重要な基準点となることを示唆。 |
| ダレン・ネイシュ博士 (サウサンプトン大学) |
外部の著名研究者 イギリスの恐竜相・脊椎動物進化 |
本研究を共有し、イギリスの白亜紀前期における大型植物食恐竜の多様性が、従来の「2種のみ」という枠組みをはるかに超えていたというモデルを支持。 |
結論:パルドハドロス記載がもたらす鳥脚類進化研究の展望
パルドハドロス・プラウドラヴィの発表は、単に1種の新種恐竜が追加されただけでなく、白亜紀前期の恐竜研究に大きな転換をもたらしました。硬い岩石に覆われていた2001年発掘の標本にマイクロCTスキャンを適用したことで、歯や顎の決定的な特徴が明らかになり、25年間「イグアノドンの幼体」や「マンテリサウルス」とされてきた化石が独自の属として確立されました。同時に、70年前に報告されていた足や腕の骨の正体も一気に解決され、博物館に眠る歴史的な標本を最新技術で見直すアプローチの重要性が改めて証明されました。
さらに、パルドハドロスが背中に帆を持つイスティオラキスと姉妹群であり、ハドロサウルス上科の最も初期のグループを形作っていることが分かったことで、鳥脚類における「背中の帆」が複数の系統で独立に収斂進化したことが裏付けられました。そして、わずか100メートル隣から見つかった肉食恐竜バリオニクスとの生々しい生態的つながりや、「ビッグ・イギー」の正体をめぐる新たな視点は、1億2500万年前のイギリスの泥深い湿地帯に広がっていた生態系の姿をこれまで以上にリアルに描き出しています。今後、ロンドン自然史博物館のコレクション全体の再調査が進むことで、カモノハシ恐竜へと至る進化の物語はさらに詳しく解き明かされていくことでしょう。
引用・参考文献
- [2026] Paludohadros proudlovii • A New iguanodontian Dinosaur, http://novataxa.blogspot.com/2026/10/paludohadros.html
- Scientists Discover a New Dinosaur Species Hiding in Plain Sight, https://scitechdaily.com/scientists-discover-a-new-dinosaur-species-hiding-in-plain-sight-for-25-years/
- A new iguanodontian dinosaur from the Weald Clay Formation, https://www.tandfonline.com/doi/pdf/10.1080/14772019.2026.2726221
- Paludohadros proudlovii: New Early Cretaceous Iguanodontian, https://crvscience.com/news/paludohadros-proudlovii-dinosaur-surrey
- New UK dinosaur discovered in London's Natural History Museum, https://www.discoverwildlife.com/dinosaurs/paludohadros-proudlovii-discovery
- Scientists Discover a New Dinosaur That Was "Hiding" in a London, https://www.zmescience.com/science/new-british-dinosaur-museum-discovery/
- New species of dinosaur named in honour of Surrey man | ITV News, https://www.itv.com/news/meridian/2026-10-27/new-species-of-dinosaur-named-in-honour-of-surrey-man