恐竜ニュース:新属のテリジノサウルス類 カイラサウルス

新属のテリジノサウルス類の分析

カイラサウルス(Kayrasaurus changliensis)の発見

公開日:

中国の熱河生物群から、全く新しいテリジノサウルス類「カイラサウルス・チャンリエンシス(Kayrasaurus changliensis)」が発見されました。

同地域で見つかったテリジノサウルス類の中で最大級となるこの新種は、他の恐竜には見られない以下のような驚くべき特徴を備えています。

  • 最多の歯: 既知のテリジノサウルス類で最多となる、45個以上の密集した下顎歯
  • 極端に長い首: 高所の植物を食べるために、著しく長く進化した頸部
  • 特殊な爪: 枝を引き寄せるための独特な「隆起」を持つ強力な爪

本ページでは、奇妙な進化を遂げたカイラサウルスの特異な解剖学的特徴と、約1億2500万年前の生態系で彼らが他の恐竜とどのように棲み分けていたのか(ニッチ分割)について、最新の研究をもとに解説します。

序論

カイラサウルス(Kayrasaurus changliensis)のイラスト
カイラサウルスの想像図
Gemini Generated Image

獣脚類は一般的に"肉食性の恐竜"として認知されていますが、その系統の一部が特異な植物食性または雑食性へとシフトを遂げた例が複数確認されています。その中でも最も特異かつ極端な形態的進化を遂げたグループがテリジノサウルス類(Therizinosauria)です。

この分類群は、獣脚類に特有の二足歩行の基本骨格を維持しながらも、比較的小さな頭部、植物の葉を切り取るための葉っぱのような形をした歯、長く伸びた首、植物を発酵させるための巨大な消化管を収容する幅広で樽状の胴部、そして前肢に備わった巨大で鋭く湾曲した爪という、解剖学的特徴をもっています。これらの変わった形態は、長年にわたり系統学的な分類を困難なものにしてきましたが、基盤的(初期に分岐した)分類群の化石記録が蓄積されるにつれ、その進化の道筋が徐々に解明されつつあります。

中国北東部に広がる前期白亜紀の熱河生物群(Jehol Biota)は、羽毛恐竜や初期の鳥類、哺乳類の極めて保存状態の良い化石を産出することで知られており、テリジノサウルス類の初期進化を解明する上で重要な地層です。2026年9月、古生物学誌『Journal of Systematic Palaeontology』(第24巻第2号)において、中国科学院古脊椎動物古人類研究所(IVPP)および雲南大学のXing Xu(徐星)博士らの国際研究チームにより、熱河生物群から産出した新たなテリジノサウルス類の新属新種が正式に記載されました。

この新種は「カイラサウルス・チャンリエンシス(Kayrasaurus changliensis)」と命名されました。熱河生物群から発見されたテリジノサウルス類の中では最大かつ最も特異な解剖学的特徴を持つことが判明しています。

分類学的背景と命名の語源

カイラサウルスは、獣脚亜目コエルロサウルス類に属するテリジノサウルス類として分類されます。本種の命名には、古生物学における系統的なつながりと、化石が産出した地理的・歴史的背景が反映されています。

属名である「Kayrasaurus」の前半部分「Kayra(カイラ)」は、テュルク系民族に伝わる「創造神」の名に由来しています。カイラは、同じくテリジノサウルス類として著名なエルリコサウルス(Erlikosaurus)の語源となった死の神「Erlik(エルリク)」の父とされる存在です。系統学的にカイラサウルスがエルリコサウルスを含むより進化したテリジノサウルス類へとつながる基盤的分類群であり、「祖先的」な位置に属していることを示唆しています。後半の「saurus」はギリシャ語で「トカゲ」を意味する一般的な接尾辞です。

種小名である「changliensis」は、化石の産出地である中国東北部一帯の三国時代における歴史的な古地名「昌黎(Changli)」に由来し、化石の起源となる土地への敬意が込められています。

表1:カイラサウルス・チャンリエンシスの分類階級
分類階級 学名(分類群名) 命名者および年
上目 Dinosauria Owen, 1842
亜目 Theropoda Marsh, 1881
下目 Coelurosauria sensu Gauthier, 1986
クレード Therizinosauria Russell and Dong, 1993
属 Kayrasaurus Liao et al., 2026
種 Kayrasaurus changliensis Liao et al., 2026

地質学的および層序学的文脈

カイラサウルスの化石は、中国遼寧省北票市近郊の四合屯(Sihetun)地区、大板溝(Dabangou)村に位置する義県層(Yixian Formation)の露頭から発掘されました。義県層は白亜紀前期(約1億2500万年前)にかけて堆積した地層です。

白亜紀前期のこの地域は、温暖で湿潤な気候に恵まれ、初期の被子植物(花を咲かせる植物)が進化し、生態系を徐々に変化させ始めていた時代です。針葉樹やシダ植物が依然として優勢な一方で、新たな植物の登場は、小型獣脚類の多様化など、植物食動物および雑食動物の進化を強力に後押ししていたと考えられます。

タフォノミー(化石化の過程)と義県層の保存状態:
熱河生物群は、活発な火山活動に伴う微細な火山灰が急速に降り積もることで、生物の軟組織や微細な骨格構造が奇跡的に保存される環境でした。カイラサウルスの標本も、堆積時の地圧によって二次元的にペチャンコに圧縮されており、頭骨の厚さがわずか3〜5ミリメートルにまで平坦化しています。これは義県層から産出する化石に特有のものであり、立体の復元は難しい一方で、骨格がバラバラにならずに関節したまま保存されるという利点をもたらしています。

本種記載のホロタイプ標本は標本番号「IVPP V 18957」として北京の中国科学院古脊椎動物古人類研究所に収蔵されており、その後肢、骨盤の大部分、および尾の先端部分を欠いているものの、頭骨を含むほぼ完全な関節された骨格から構成されています。

ホロタイプ標本 IVPP V 18957 の詳細解剖学

カイラサウルスは、他の初期テリジノサウルス類とは明確に区別される特有の固有派生形質(その種類だけが持つ独自の特徴)を確認できます。とりわけ、頭骨、頸部、および前肢の解剖学的形態は、特定の植物を効率的に食べるための高度な生態学的適応を物語っています。

頭蓋および下顎骨格の特異性

本種の頭骨化石から、巨大で丸みを帯びた眼窩(目の穴)と、前後に長く伸びた鼻の穴を持つことが確認されています。上顎の最前部には歯が全く存在しない(無歯性)という、テリジノサウルス類と共通する特徴を持つ一方で、それに続く上顎骨の領域には、約32個の小さく密集した歯が並んでいます。

特筆すべきは下顎(歯骨)の歯列と構造です。下顎の先端5ミリメートルは無歯であり、下方に曲がっています。その後方に続く前側3分の2の領域に、少なくとも45個もの微小で密集した歯が存在します。この下顎歯の数は、他の初期テリジノサウルス類が40本未満の歯しか持たないことと比較すると異常に多く、既知のテリジノサウルス類全体の中で最多です。歯の形状は植物の葉や茎を効率的に切り取るための強力な適応を示しています。さらに、強固な下顎が上顎に対して前方に突出する、いわゆる「受け口(underbite)」の構造をしていたことも指摘されています。

体幹および脊椎骨格における比率の変化

保存されている10個の関節した頸椎(首の骨)は長く、最も短い頸椎であっても、最も長い背椎(胴体の骨)より30%以上長いという極めて特異なプロポーションを示しています。このような首の著しい延長は、高所の植物を食べるための適応を示唆しています。

背椎は少なくとも11個保存されており、前方の神経棘は丸みを帯びて後ろに傾斜していますが、後方に向かうにつれて長方形となる形態的変化を示します。背中や肋骨は非常に堅牢(がっしりした構造)です。

肩帯と前肢のモザイク進化

カイラサウルスの肩帯と前肢の構造は、初期の仲間と後の進化した仲間の特徴が混在したモザイク進化の典型例を示しています。肩甲骨と烏口骨からなる肩帯は部分的に癒合していますが、これは他の初期の分類群が未癒合であるのとは対照的であり、進化したテリジノサウルス類に類似する特徴です。

前肢はほぼ完全に保存されていました。尺骨は弓状に湾曲しており、橈骨は真っ直ぐでスレンダーな形態を保持しています。

特殊化した掌指骨および末節骨(爪)の構造

テリジノサウルス類を象徴する前肢の爪(末節骨)は、カイラサウルスにおいても大きく、強く湾曲した状態で保存されています。

3本の指のうち、第II指(内側の指)は最も短いですが、その根元の骨は最も長く強固です。一番外側の第IV指は最も華奢であり、その爪は他の2本の指よりも小さいですが、根元の上部に向かって突出する独特の「隆起」を有しています。この上方に突き出た隆起は他のすべてのテリジノサウルス類とは明確に異なる本種特有の形態であり、爪を動かす筋肉の特殊なつき方や、採食時の特異な動きを反映していると考えられます。

個体発生、サイズ、および成長動態

カイラサウルスは、熱河生物群から発見されたテリジノサウルス類の中で最大のサイズを誇ります。発見された個体の体長は少なくとも3.6メートルに達し、体重は117キログラムから274キログラムの間と推定されています。
しかし、この数値は本種の真の最大サイズを示しているわけではありません。脊椎骨の癒合状態などから、このホロタイプ標本は死亡時にまだ成長途上にある「亜成体」であったことが判明しています。恐竜の成長曲線を考慮すると、カイラサウルスの完全に成熟した成体は、現在推定されているサイズを大幅に上回り、体重が500キログラムを超え、体長も4〜5メートルに達したと推定されています。

また、近縁種において羽毛の痕跡が確認されていることから、カイラサウルスも同様に全身を羽毛で覆われていた可能性が高いと見られています。

古生態学:熱河生物群におけるニッチ分割

カイラサウルスの発見がもたらした学術的貢献の一つは、初期白亜紀の熱河生物群におけるテリジノサウルス類の「ニッチ分割(Niche partitioning)」の存在を実証した点にあります。

ニッチ分割とは:
生態学における「競争排除則」によれば、完全に同じ生活スタイルや食べ物(生態的地位=ニッチ)を持つ複数の種は、同じ環境に長期間共存することはできません。そのため、環境内の異なる資源を利用することで直接的な競争を避ける工夫を「ニッチ分割」と呼びます。

義県層という同一の地層・生態系から、4種もの近縁なテリジノサウルス類が確認されたことは、これらが異なる戦略で棲み分けをしていたことを示しています。少なくとも2つの明確なグループに分化していたことが突き止められました。

1. どっしり・口腔内処理型戦略(カイラサウルス、ベイピアオサウルス)

巨大化した体、よりがっしりした骨格、および高い噛む力に適応した顎の構造を特徴とします。機敏な動きや長距離の走行には適していません。前肢の強力な爪を用いて植物の枝を引き寄せ、無数の細密な歯によって口の中で効率的に葉を切り刻んでいたと考えられます。カイラサウルスの極端に延長された首は、より高い植物へアクセスできたことを強く示唆しています。

2. 機敏・走行性・前肢主導型戦略(ジャンチャンゴサウルス、リンユアンオサウルス)

体が比較的小型で、華奢な骨格構造と長いスネの骨を備えていることから、走ることに適した脚力を持っていたと推定されています。比較的低い位置にある植物を広範囲を探索し、前肢を用いた採集行動に依存していたと考えられます。

表2:初期テリジノサウルス類の生態学的戦略の比較
生態学的・形態学的特徴 堅牢・口腔内処理型戦略
(カイラサウルスなど)
機敏・走行性・前肢主導型戦略
(ジャンチャンゴサウルスなど)
体格・骨格構造 堅牢、重厚、巨大化傾向 華奢、軽量、小型〜中型
走行性 低い(短く太い下肢骨) 高い(長くスレンダーな下肢骨)
頸部のプロポーション 著しく延長(高所の植物を食べる) 比較的短い〜中程度
歯列および顎の構造 歯数が多く密集、高い噛む力 歯数が比較的少ない、顎が軽量
採食行動の主体 口の中での処理を重視 前肢主導の採集を重視
主な対象植生 中〜高層の樹木、強靭な葉や茎 低層の植生、広範囲の探索

このように、体の大きさと首の長さを変えることで食べる植物の高さを分け、顎の強度と歯の構造を変えることで食べる植物の硬さを分けるという、複雑で洗練された生態系が、1億2500万年前の熱河生物群で構築されていたのです。

生体力学的適応と進化的意義

カイラサウルスのデータは、進化においていくつかの重要な変化が起きていたことを示しています。

まず、爪の形態についてです。カイラサウルスの爪に見られる上方に突き出た独特の隆起構造は、指を伸ばす筋肉の付着角度を変化させ、頑丈な枝を引き寄せるような強力な力を生み出していた可能性があります。爪の形状を変化させることが、多様な植物資源の開拓の原動力であったことを示唆しています。

次に、食べ物の消化方法の変化です。白亜紀後期の進化したテリジノサウルス類は、歯の数が減少し、胃石を用いた胃腸での発酵やすりつぶしに大きく依存するようになります。しかし、カイラサウルスは下顎だけで45本以上の歯を持ち、口の中での物理的な処理に強く依存していました。これは、植物食性へ移行する進化の過程で、まずは「顎と歯による粉砕」が発達し、その後に「巨大な消化器での化学的発酵」へと主役が移行したことを示す過渡的な証拠であると言えます。

引用・参考文献

  • Scientists Found a New Giant Feathered Dinosaur With Nightmare, https://www.zmescience.com/science/paleontology/scientists-found-a-new-giant-feathered-dinosaur-with-nightmare-claws-but-it-ate-plants/
  • Scientists Just Unearthed China's New Giant Dinosaur, and Its Body, https://dailygalaxy.com/2026/09/china-giant-dinosaur-unique-body-structure/
  • This Newly Discovered Dinosaur Looks Terrifying—But ... - Nautilus, https://nautil.us/this-newly-discovered-dinosaur-looks-terrifying-but-probably-wouldnt-eat-you-1285466
  • [Paleontology • 2026] Kayrasaurus changliensi, http://novataxa.blogspot.com/2026/09/kayrasaurus.html
  • New Therizinosaurian Dinosaur Unearthed in China | Sci.News, https://www.sci.news/paleontology/kayrasaurus-changliensis-15082.html
  • Kayrasaurus - Wikipedia, https://en.wikipedia.org/wiki/Kayrasaurus
  • KAYRASAURUS - DinoChecker dinosaur archive, http://www.dinochecker.com/dinosaurs/KAYRASAURUS
  • 凯拉神龙揭示早期镰刀龙类的生态分化, https://www.ivpp.ac.cn/xwdt/kyjz/202609/t20260917_8284044.html
  • New therizinosaur species unearthed in northeastern China, https://signal-update.com/update-feed/new-therizinosaur-species-kayrasaurus-china/
  • 学者も「奇妙」と呼ぶ巨大恐竜の仲間を中国で発見 - ナゾロジー, https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/200315
  • New 120 million year old dinosaur species described from China, https://www.reddit.com/r/Dinosaurs/comments/1wd90cx/new_120_million_year_old_dinosaur_species/