タルボサウルス

タルボサウルス

Tarbosaurus

タルボサウルスとは

学名(属名) Tarbosaurus
名前の意味 警告するトカゲ
tarbos(警告、恐怖)[ギリシャ語]-saurus(トカゲ)[ギリシャ語]
分類 竜盤目・獣脚類(獣脚亜目・テタヌラ下目・コエルロサウルス類・ティラノサウルス科)
全長 約9 - 12m
食性 肉食
生息時期 白亜紀後期(約7500万年前-7000万年前)
下分類・種名 Tarbosaurus bataar
論文記載年 1955
記載論文 Giant carnivorous dinosaurs of Mongolia.
Doklady Akademii Nauk SSSR. 104.
by Maleev, Evgeny A. 1955.

特徴

モンゴルで見つかったタルボサウルスは、北米のティラノサウルスと近縁と考えられています。白亜紀後期(約7500万年前-7000万年前)のアジア地域の王者でした。
前足はティラノサウルスよりもさらに短く、2本の指を持っていました。鋭い歯は最大18cmあります。口の周りにあいた小さな穴は、神経や血管が通っていた跡と考えられています。

タルボサウルスの全身骨格化石
全身骨格化石(2013年撮影)

1948年に発見されたタルボサウルスの頭骨化石(標本番号PIN 553-1)には、脳を納めていた脳腔が保存されていました。脳の形状を計ることができたのです。北米のティラノサウルスとは 三叉神経や補助神経などいくつかの脳神経根の位置が異なっていました。全長12mを誇るタルボサウルスの脳容積が、わずか184cm³だったと推定されました。視力に関連する脳神経は小さく、その反面、嗅覚を司る嗅球や鋤鼻球が大きかったこともわかりました。臭いに対して、鋭敏だったことを示唆しています。

これらのティラノサウルスとの違いは、両者が異なる生態系に適応した結果と考えられています。ティラノサウルスが、トリケラトプスのような頑丈な獲物を仕留めるために、骨を砕くほどの強力な咬合力と、それを支える頑丈な頭骨、そして正確な距離を測るための立体視を発達させたのに対し、タルボサウルスは、サウロロフスのような、より軽快な獲物を狩るのに適した、軽量で細い頭骨を発達させたのかもしれません。

幼体と成体の頭骨を比較する

タルボサウルスの幼体(子ども)と成体(大人)の頭骨化石を比べてみましょう。

タルボサウルス幼体と成体の頭骨比較
タルボサウルス幼体と成体の頭骨比較
  • ①幼体では低かった上顎骨が、大人になると高く盛り上がる。
  • ②頭頂部の突起が、大人になると高くなる。

成体の頭骨には強い力を拡散する(逃がす)構造となっていますが、華奢な幼体の頭骨にはそれがなく、大きくなるにつれて力強い頭骨に変化していきます。噛む力も成長に伴って強くなっていったのでしょう。子どもの頃には、獲物の柔らかい部分を食していたかも知れません。

また、幼体の頭骨-眼には硬化リングが存在します。このことは暗闇のなかでも視覚を確保していたことが示唆されています。タルボサウルスの幼体が夜行性だった可能性を示すものですが、成体(大人)が夜行性だったかどうかはわかっていません。

タルボサウルス幼体の産状化石
タルボサウルス幼体の産状化石(2013年撮影)
タルボサウルスの全身骨格化石
全身骨格化石(2013年撮影)

アジアの王者か、もう一種のティラノサウルスか?

タルボサウルスの切手

タルボサウルスの分類をめぐっては、発見以来、古生物学における最大級の論争が続いています。それは、「タルボサウルスは独立した属なのか、それともティラノサウルス属のアジアの種(Tyrannosaurus bataar)なのか」という問題です。

現在、多くの研究者はタルボサウルスを独立した属と見なしていますが、両者の見解にはそれぞれ次のような根拠があります。

  • タルボサウルスは独立属だとする説(主流派)の根拠:
    • タルボサウルスの頭骨は、ティラノサウルスに比べて細長く、軽量である。
    • 下顎の構造に、ティラノサウルスにはない独自のロック機構がある。
    • 噛み付く際の、頭骨にかかる力(応力)のかかり方が明らかに異なる。
  • ティラノサウルス属の一種だとする説の根拠:
    • 両者の違いは、現代のライオンとトラの違いのように、種レベルのものであり、属を分けるほど決定的ではない。
    • 両者は最も近縁な姉妹種であり、地理的な変異と見なすことができる。

この論争は、生物学における「属」と「種」の定義の難しさを示す好例として、今後も続いていくことでしょう。

発見と論文記載

1946年、モンゴル・ゴビ砂漠でソビエト連邦とモンゴルの共同発掘調査が行われました。メネゲト層Nemegt Formationで、大きな頭骨と脊椎を発見します。

タルボサウルスの全身骨格化石
全身骨格化石(2019年撮影)

1955年、ソビエト連邦の古生物学者エフゲニー・マレーエフ(Evgeny Maleev)は標本番号PIN 551-1に基づき、ティラノサウルスの新種ティラノサウルス・バタール(Tyrannosaurus bataar)と記載します。
反面、ソビエト連邦の古生物学者AK Rozhdestvenskyは、モンゴルで発見された標本は北米のティラノサウルスと異なる属にあたると考えていました。のちに、マレーエフを含め古生物学者は「ティラノサウルスと異なること」を認め、タルボサウルス(Tarbosaurus)に改名されることになります。

それでもなお2000年ごろまでは「タルボサウルスを、ティラノサウルス属に含めるべき」と主張する学者もいましたが、2003年頭骨に明らかな違いが認められるとする論文が発表されています。

タルボサウルス切手

オークション・密輸騒ぎ

タルボサウルスの頭骨化石
タルボサウルスの頭骨化石(2009年撮影)

2012年6月、ニューヨークで開催されたオークションに「ティラノサウルス・バタール(Tyrannosaurus bataar)」として出品されたタルボサウルスの全身骨格は、105万ドル(当時約8300万円)で落札されました。全長7m31cmのほぼ完全な骨格化石です。

しかし、「虚偽の申告をしてモンゴルから英国経由で密輸されたものだ」として、ニューヨークの検察当局・米移民税関捜査局が化石を差し押さえました。
オークションと密輸騒ぎで有名になったタルボサウルス・バタールは、2013年5月、モンゴルに返還されました。

タルボサウルスの切手・化石ギャラリー