ステゴサウルスとは
| 学名(属名) | Stegosaurus |
| 名前の意味 |
屋根のあるトカゲ
stegos(屋根)[ギリシャ語]-saurus(トカゲ)[ギリシャ語] |
| 分類 | 鳥盤目・装盾類 (装盾亜目・剣竜下目) |
| 全長 | 約7〜9m |
| 食性 | 植物食 |
| 生息時期 | 後期ジュラ紀 |
| 下分類・種名 |
Stegosaurus stenops (現在の模式種)
Stegosaurus ungulatus Stegosaurus sulcatus ※最初の模式種とされたS. armatusは、現在では疑問名とされています。 |
| 論文記載年 | 1877年 (最初の記載) |
| 記載論文 |
A new order of extinct Reptilia (Stegosauria) from the Jurassic of the Rocky Mountains.
American Journal of Science(Series 3 Vol. 14), by Marsh, Dec, 1877. |
ステゴサウルスの特徴 : 背中の板(骨板)
ステゴサウルスの最大の特徴は、背中に並ぶ最大17〜19枚の巨大な菱形の骨板(プレート)です。長年の研究の結果、これらの板は「互い違いの2列」で垂直に立っていたことがわかっています。
かつては捕食者から身を守るための「装甲」と考えられていましたが、板の内部はスポンジのように隙間が多く、強度に欠けるため、防御用の武器としての役割は否定されています。
その代わり、有力な役割として「体温調節」と「視覚的ディスプレイ」の2つが考えられています。板の内部には血管の通る跡が無数にあり、風を当てて熱を逃がしたり、太陽光で血液を温めたりするラジエーターとして機能していた可能性が指摘されています。また、血液を大量に送り込んで板を赤く紅潮させることで、仲間を認識したり、異性にアピールしたり、敵を威嚇するディスプレイとして使われたとも考えられています。
さらに近年の研究では、板の形に明確な「幅広で丸いタイプ」と「狭くて背が高いタイプ」の2種類があることがわかり、これが性別の違い(性的二型)を示しているという説が有力視されています。
強力な武器「尾のスパイク」
現在では、「スパイクは水平方向(外側)に突き出している」と考えられています
尾の先端には、長さ60〜90cmにも達する4本の巨大な棘(スパイク)が備わっていました。化石の関節状態から、これらの棘は上向きではなく「水平方向(外側)」に突き出していたことがわかっています。
ステゴサウルスは柔軟な尾を持っており、巨大な筋肉を使って棘付きの尾を高速で振り回すことができました。実際に、この棘の形とぴったり一致する穴が開いたアロサウルスの尾の骨が発見されており、肉食恐竜に対する迎撃武器として使われていた証拠となっています。また、激しい衝撃によって折れた後に治癒した形跡のあるスパイクも多数見つかっています。
サゴマイザーの誕生
ステゴサウルスの尾のスパイクには「サゴマイザー (Thagomizer)」という愛称があります。これは科学論文ではなく、1982年の有名なギャグ漫画(ゲイリー・ラーソン作『ファー・サイド』)の中で、原始人が「この武器は、今は亡きサグ・シモンズにちなんで"サゴマイザー"と呼ばれている」と語ったジョークが元ネタです。古生物学者たちがこの名称を気に入り、現在では解剖学の正式な用語としても使われるようになっています。
ステゴサウルスの喉元を守る装甲
背中の板ばかりが注目されがちですが、ステゴサウルスの喉元から首の下側にかけては、「グーラー・アーマー」と呼ばれる特殊な装甲がありました。これは、小さな骨の粒が鎖帷子(チェーンメイル)のように皮膚の中に無数に埋め込まれたものです。
ステゴサウルスにとって、首の下側はアロサウルスなどの肉食恐竜から狙われやすい弱点でした。グーラー・アーマーは、下から噛み付かれた際の致命傷を防ぐ物理的な盾として、また、硬く鋭い植物の葉から喉元を保護する役割を果たしていたと考えられています。
食事と消化の仕組み
ステゴサウルスは頭部が小さく、吻端(口先)にある角質の嘴(くちばし)でシダやソテツなどの背の低い植物を刈り取っていました。かつては「噛む力が弱く、食物を丸飲みしていた」と考えられていましたが、近年の歯の摩耗の研究により、上下の歯を噛み合わせて、植物の繊維をある程度すり潰していたことがわかっています。
また、ステゴサウルスの体内から見つかる「胃石(ガストロリス)」は角張った形をしています。鳥類のように筋肉質の胃で石をこすり合わせて食べ物をすり潰す動物の胃石は丸くなるため、それに反してステゴサウルスは強力な胃を持っていなかったことがわかります。彼らは「極めて長い腸(後腸)」に食べ物を送り込み、現代の牛やゾウのように、微生物の発酵によって時間をかけて消化していたと考えられています。
小さな脳と「第2の脳」の誤解
ステゴサウルスの脳は、巨大な体に対して非常に小さく、約80グラム(現代の犬の脳程度)しかありませんでした。しかし、最新のCTスキャンを用いた内耳の研究から、彼らの感覚器官が独自の進化を遂げていたことが判明しています。
内耳の三半規管の向きから、彼らの頭部は常に下(約45度の角度)を向くのが自然な姿勢だったことがわかりました。これは、地面に近い植物を食べることに特化した結果です。また、障害物の多い森の中で長距離まで届きやすい低周波の音を聞き取り、群れの仲間とコミュニケーションをとっていたと考えられています。
かつて、腰の骨(仙椎)にある大きな空洞を見て、「巨大な体を動かすために、腰にも第2の脳を持っていた」という説が広く信じられていました。しかし、現在この説は完全に否定されています。この空洞は脳の格納場所ではなく、現代の鳥類にも見られるような「グリコーゲン体」と呼ばれる、エネルギーを貯蔵したり神経系に栄養を送ったりするための組織が入っていた場所だと考えられています。
成長と群れでの生活
ステゴサウルスは成長の段階によって、背中の板と尾のスパイクの発達するタイミングが異なることがわかっています。若い頃にはまず背中の板に血管網が作られます。これは、急速な体積増加に伴う体温調節の必要性、あるいは性成熟に伴うディスプレイ器官としての機能が、若年期に優先して要求されたことを示しています。
一方で、強力な物理的武器となる尾のスパイクの骨が硬くなる(緻密骨化)のは、成長しきった個体になってからでした。つまり、幼体や若いステゴサウルスの尾のスパイクは、防御武器として役に立たなかったのです。
アメリカで発見された足跡化石からは、彼らが群れを作って同じ方向へ移動していたことが示唆されています。若い個体はまだ尾の武器が未完成だったため、巨大で強靭な大人が群れの外側に立ち、子どもたちを内側に守るような隊形をとることで、アロサウルスなどの肉食恐竜から身を守っていたと考えられています。
初めての発見と奇跡の標本「ソフィー」
ステゴサウルスの名前が初めて論文に記載されたのは、1877年のことです。古生物学者オスニエル・チャールズ・マーシュが発見した当初、ステゴサウルスは水棲カメのような爬虫類と考えられていました。属名であるStegosaurusはギリシャ語で「屋根のあるトカゲ」を意味しますが、これは背中の板がカメの甲羅や屋根瓦のように横に倒れて背中を覆っていたと想像されたことに由来します。その後、より保存状態の良い化石が見つかり、現在のように板が立っている姿に復元されるようになりました。
当初の模式種(基準となる種)は断片的な化石に基づいた「ステゴサウルス・アルマトゥス」でしたが、後に保存状態の良かった「ステゴサウルス・ステノプス」に模式種が変更されるという珍しい経緯をたどっています。
長年、全体像は断片的な化石の組み合わせで推測されてきましたが、2014年にロンドン自然史博物館が、約85%の骨が揃った史上最も完全なステゴサウルスの標本を公開しました。この標本は「ソフィー(Sophie)」の愛称で呼ばれています。
ソフィーの骨格を最新の3Dデジタル技術を使って計算した結果、生前の体重は約1.6トン(小型のサイ程度)であったことが判明しました。また歩行速度は人間の早歩き程度(時速約6km)と遅かったものの、短い前足を軸にして長い後ろ足で踏ん張ることで、その場での「急旋回」は得意だったと推定されています。これにより、肉食恐竜に回り込まれても素早くサゴマイザー(尾のスパイク)を敵に向けることができたのです。
ガチャピンとステゴサウルスの関係
日本のヒーロー"ゴジラ"の背中に生えたヒレは、ステゴサウルスの背板がモチーフになっています。
また、2012年福井県立恐竜博物館の協力により、ポンキッキシリーズで活躍した"ガチャピン"の祖先は<鳥盤目-装盾亜目-剣竜下目>であると推定されています。