オウラノサウルスとは
学名(属名) | Ouranosaurus |
名前の意味 | 勇敢なトカゲ ourane(勇敢な)[アラビア語]-saurus(トカゲ)[ギリシャ語] |
分類 | 鳥盤目・鳥脚類 (ハドロサウルス形類) |
全長 | 約7m |
食性 | 植物食 |
生息時期 | 白亜紀前期 |
下分類・種名 | Ouranosaurus nigeriensis |
論文記載年 | 1976 |
属名の記載論文 | Géologie et paléontologie du gisement de Gadoufaoua (Aptien du Niger). Cahiers de Paléontologie, CNRS, Paris. by Philippe Taquet. 1976. |
特徴
オウラノサウルスの最大の特徴は、背骨から長く伸びた神経棘です。この構造がどのような外見をしていたかについては、二つの有力な説があります。
- 帆(ほ)だった説:伝統的な復元で、スピノサウルスのように、骨の間を薄い皮膚の膜が覆って「帆」を形成していたという考えです。この帆に血液を流すことで、日光で体を温めたり、風に当てて体を冷やしたりする、体温調節のラジエーターとして機能したとされます。
- 肉のこぶ(ハンプ)だった説:近年、より有力視されているのが、骨の突起がバイソンのような、筋肉質で脂肪の詰まった「肉のこぶ」を支えていたという考えです。このこぶは、乾季を乗り切るための栄養を蓄える役割や、仲間を見分けるためのディスプレイとして使われた可能性があります。
どちらの説が正しかったのか、結論はまだ出ていませんが、この背中の構造がオウラノサウルスの生存に重要な役割を果たしていたことは間違いありません。

背中の帆は体温調節に使われました
オウラノサウルスは2足歩行が中心でしたが、前足の指の先端がヒズメ状になっていました。 必要に応じて4足で歩行したり休んだりできたのでしょう。
顎の力は、それほど強くなかったようです。
また、前あしの親指には、近縁のイグアノドンのものよりは小さいですが、円錐状の鋭い爪がありました。これは、植物をたぐり寄せたり、捕食者に対する防御に使われた可能性があります。

西アフリカのニジェールで発掘されたオウラノサウルスは、数少ない「アフリカでの大型鳥脚類の全身骨格標本」として貴重なものとなっています。 かつてはイグアノドン科に属すると考えられていましたが、現在では訂正され、ハドロサウルス科に含まれています。


発見と記載論文

オウラノサウルスの化石は、1965年から1972年にかけて、フランスの著名な古生物学者フィリップ・タケ博士が率いる探検隊によって、西アフリカ・ニジェールのガドゥファオウアと呼ばれる砂漠地帯で発見されました。
非常に保存状態の良い2体の骨格に基づき、タケ博士は1976年に発表した包括的な研究論文(Géologie et paléontologie du gisement de Gadoufaoua (Aptien du Niger). Cahiers de Paléontologie, CNRS, Paris. by Philippe Taquet. 1976.)の中で、 この恐竜を新属新種として世界に紹介しました。その論文の主な要点は以下の通りです。
記載論文の要点
- 新属新種の命名:化石に基づき、新属新種オウラノサウルス・ニジェリエンシス(Ouranosaurus nigeriensis)を正式に命名しました。
- 詳細な解剖学的記載:背中にある非常に長い神経棘(帆またはこぶの骨格)や、カモノハシのような平たい口先など、全身の骨格の特徴を詳細に図解付きで記録しました。
- 分類上の位置付け:当時としてはイグアノドン科に分類され、イグアノドンの近縁種であると結論付けられました。(※この分類は後の研究で見直されます)
- 「帆」の機能に関する考察:背中の構造について、体温調節や仲間へのディスプレイといった、現在も議論されている主要な仮説を初めて科学的に提唱しました。
- 古環境の復元:オウラノサウルスだけでなく、産出地全体の地質や、共に発見されたワニやカメなどの化石も記述し、白亜紀前期のアフリカの生態系を明らかにしました。
この論文は、オウラノサウルスというユニークな恐竜を世界に知らしめただけでなく、アフリカ大陸の恐竜時代の生態系を解明する上で、非常に重要な一歩となりました。