エオドロマエウスのイメージイラスト

エオドロマエウス

Eodromaeus

エオドロマエウスとは

学名(属名) Eodromaeus
名前の意味 夜明けの走者
ēōs(暁、夜明け)[ギリシャ語]-dromaeus(走者)[ギリシャ語]
分類 竜盤目・獣脚類 (獣脚亜目)
全長 約1.2m
食性 肉食
生息時期 三畳紀後期(約2億3200万年~2億2900万年前)
下分類・種名 Eodromaeus murphi
論文記載年 2011
属名の記載論文 A Basal Dinosaur from the Dawn of the Dinosaur Era in Southwestern Pangaea.
Science 331(6014).
Martinez, R.N., Sereno, P.C., Alcober, O.A., et al. 2011.

特徴

エオドロマエウスは三畳紀後期、現在のアルゼンチンに生息していた、知られている中で最も初期の獣脚類恐竜の一つです。「夜明けの走者」という名の通り、全長約1.2m、体重5kgほどの非常に軽量でスレンダーな体つきをしており、二本の後ろ足で素早く走り回ることができました。

エオドロマエウスの全身骨格化石
エオドロマエウスの全身骨格化石(2024年撮影)

エオドロマエウスの最も重要な特徴は、その頭骨と歯にあります。上顎には長く鋭い牙が並び、後のティラノサウルスやアロサウルスといった大型獣脚類に繋がる肉食恐竜の基本的な特徴をすでに備えていました。長い尻尾でバランスを取りながら、昆虫や小さな爬虫類などを捕食していたと考えられています。

手には5本の指がありましたが、そのうちの第4指と第5指は非常に小さく、主に物を掴むのに使われたのは3本の指だったと推測されます。この「3本指の手」も、後の獣脚類に共通する特徴です。

荒野を走るエオドロマエウス
エオドロマエウスのいる風景
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エオラプトルとの決別

エオドロマエウスの化石は、もともと同じ地層から発見されたエオラプトルのものと考えられていました。しかし、2011年の詳細な研究により、両者には決定的な違いがあることが明らかになります。

エオドロマエウスの全身骨格化石
エオドロマエウスの全身骨格化石(2023年撮影)

最も大きな違いは「歯」の形状です。エオドロマエウスが典型的な肉食恐竜の鋭い歯を持つのに対し、エオラプトルは肉食と植物食の両方に適した歯(異歯性)を持っています。この発見により、研究者たちは、これまで初期の獣脚類とされていたエオラプトルを、実は竜脚形類(後の巨大な植物食恐竜ブラキオサウルスなどに繋がるグループ)の非常に原始的なメンバーであると結論付けました。

つまり、同じ時代、同じ場所に生きていたこの2種類の恐竜は、恐竜時代の幕開けと同時に、すでに「肉食の獣脚類」と「植物食(雑食)の竜脚形類」という、異なる進化の道を歩み始めていたのです。エオドロマエウスの発見は、恐竜の初期の進化分岐を解明する上で、非常に重要なマイルストーンとなりました。

発見と研究

エオドロマエウスのホロタイプ標本(PVSJ 560)は、1996年にアルゼンチンのサン・フアン州にあるイスチグアラスト層(通称「月の谷」)で、シカゴ大学のポール・セレノ率いる調査隊の一員、リカルド・マルティネスによって発見されました。当初はエオラプトルの新標本と考えられていましたが、研究室でのクリーニング作業が進むにつれて、頭骨や手の構造に明らかな違いが見つかりました。

十数年にわたる詳細な分析の結果、2011年にMartinez、Sereno、Alcoberらによって、権威ある科学雑誌「Science」に新属新種Eodromaeus murphiとして記載されました。種小名の「murphi」は、この研究を支援した篤志家のジェームズ・マーフィー氏に献名されたものです。

この発見は、恐竜の二大グループである竜盤類(獣脚類と竜脚形類)が、恐竜時代の非常に早い段階で分岐していたことを示す決定的な証拠となり、恐竜の進化史の教科書を書き換えるほどのインパクトを与えました。