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恐竜は何種類くらいいた

Dinosaur number of types

恐竜の種類

これまでに発見され、科学的に有効と認められた恐竜はどのくらいいるのでしょうか。
2025年の集計では、 非鳥類型恐竜の有効な属の数は900から1000を超え、種の数では1,100種以上 が記載されています。 ただし、この数字は静的なものではなく、研究の進展とともに常に変動しています。

黒板

恐竜の種類の数が変動するのは、主に以下の要因によるものです。

  1. 新しい恐竜の発見が続いています。現在、年間におよそ30から40種というペースで新種の恐竜が命名されており、恐竜の記載数は拡大し続けています。
  2. 科学的な検証プロセスを通じて、恐竜の属・種は常に整理・改訂されています。過去に命名されたすべての恐竜が、現在も有効と見なされているわけではありません。古生物学において、不十分な化石に基づいて命名されたために後に識別不能とされた「疑問名(nomen dubium)」や、別の恐竜の同種と判明して統合された「シノニム(synonym)」が数多く存在します。著名な古生物学者ピーター・ドッドソンが1990年に行った報告では、それまでに記載されていた540の属名のうち、有効と考えられるのはわずか285属であると結論付けられました。より最近の分析では、命名された種の50%以上が、最終的に無効名になる可能性があることが示唆しています。
福井県立恐竜博物館Webサイトによると、「名前が付けられた恐竜は1,400種以上にのぼりますが、国際的な命名ルールに従っていなかったり、新種と認めるための条件がみたされていなかったものも多くあって、そのうち600種ほどは無効な名前になりました」と掲載されています(2025年10月時点)。

統計的な手法では、恐竜は約1000種とも1500種とも2000種とも推定 されています。
生息していたすべての恐竜が化石になるわけではありません。すべての化石が発見されるわけでもありません。発見された恐竜の数が生息していた数ではないのです。

パキケファロサウルスの頭骨化石
一番手前はドラゴレックスの頭骨化石。奥の2つはパキケファロサウルスの頭骨化石。
ドラゴレックスは、パキケファロサウルスの幼体(子ども)とする説が提唱されています。見た目からは、これらが同じ動物種とは思えないですね。現在いない古生物研究の難しいところです。

性差(オスとメス)による形態の違いや、同一種でも成長に応じて変化する身体的な特徴もあるでしょう。残された化石から、現在存在していない生物について、それらの条件を特定することは困難です。
今後研究が進んでも、残念ながら「恐竜が何種類いたか」を正確に把握することはできないかも知れません。

それでも、統計的に恐竜の数を推定しようとする試みが続いています。

研究者、年 統計手法 分類レベル 主要な推定値
Dodson (1990) ロジスティックモデル、属の存続期間 900–1,200
Wang & Dodson (2006) ACE (存在量ベース被覆率推定量) 約1,850
Starrfelt & Liow (2016) TRiPS (ポアソンサンプリングモデル) 1,543–2,468

恐竜の数を推定する統計的なアプローチ

恐竜の総数を定量的に推定しようとする試みが行われています。

初期の試み:ドッドソンの研究(1990年)

古生物学者ピーター・ドッドソンによる1990年の論文「Counting dinosaurs: how many kinds were there?」では、単に発見された数を数えるのではなく、発見のペースや生物の寿命といった要素を考慮して、未知の恐竜の数を推定しようと試みました。
過去の発見率の推移から未来の発見数を予測する「ロジスティックモデル」の適用です。恐竜の一つの「属」が存続した平均期間を約770万年と見積もり、これを基に中生代全体でどれだけの属が入れ替わったかを計算しました。

この分析の結果、ドッドソンは中生代全体に存在した恐竜の総数は900から1,200属の範囲に収まるだろうと結論付けました。
当時、彼が有効と見なした属の数が285であったことから、この推定は、我々が知っている恐竜は全体の約25%に過ぎないことを示唆するものでした。この試みは、恐竜の多様性の大部分がまだ発見されていないことを初めて定量的に示した、記念碑的な研究でした

ACEモデル:「発見可能な」多様性の推定(2006年)

スティーブ・C・ワンとドッドソンが米国科学アカデミー紀要(PNAS)で発表した研究では、存在量ベース被覆率推定量(Abundance-based Coverage Estimator, ACE)と呼ばれる手法が用いられました。

ACEモデルの基本的な考え方は、「稀なものの発見頻度から、未発見のものの数を推測する」というものです。もし新しい化石を発掘するたびに既知の種ばかりが見つかるのであれば、その地域の生物相はかなり解明されていると言えます。逆に、発掘のたびに1個体しか見つかっていないような珍しい種が次々と発見される場合、まだ多くの未知の種が隠されている可能性が高いと考えられます。ACEモデルは、この「1回しか発見されていない分類群」や「2回しか発見されていない分類群」の数といったデータを用いて、新種の発見確率ゼロ(つまり未発見)の分類群の数を推定します。このモデルが推定するのは、原理的に発見不可能な(化石を全く残さなかった)ものを除く、「発見可能な」恐竜の総数です。

TRiPSモデル:種レベルの豊富度への確率論的アプローチ(2016年)

ヨースタイン・スターフェルトとリー・ファ・リオウは、新しい統計モデル、ポアソンサンプリングを用いた真の豊富度推定(True Richness estimated using a Poisson Sampling, TRiPS)を発表しました。

ACEが分類群の発見頻度(存在量)に注目するのに対し、TRiPSは各種が化石記録の中で何回観察されたかに基づいて、それぞれの種が持つ固有の「サンプリング確率」を推定しようと試みます。例えば、多数の標本が知られている種は、もともと個体数が多かったか、あるいは化石として保存されやすい特徴を持っていたため、高いサンプリング確率を持つと見なされます。このモデルは、こうした各種のサンプリング確率の違いを考慮することで、サンプリングの偏りを補正し、多様性を推定します。

TRiPSモデルの特筆すべき点は、属レベルではなく、直接的に「種」レベルの数を推定したことです。中生代全体にわたる恐竜の化石記録にこのモデルを適用した結果、総数は1,936種(95%信頼区間で1,543~2,468種)と推定されました。

さらに、この研究は恐竜の主要なグループごとの多様性にも踏み込んでいます。その結果、鳥類へと続く獣脚類(Theropoda)が最も種数が多く(推定約1,115種)、竜脚形類(Sauropodomorpha、推定約513種)と鳥盤類(Ornithischia、推定約508種)がそれに続くと結論付けられました。