エルラシア(三葉虫)

エルラシア(三葉虫)

Elrathia

エルラシアとは

学名(属名) Elrathia
名前の意味 エルラス(地名)にちなむ
※ユタ州の地名Elrathが由来
分類 三葉虫綱-レドリキア目-プティコパリア亜目-アロキストカレ科
生息時期 カンブリア紀
下分類・種名 Elrathia kingii
Elrathia marjumi
Elrathia antiquata
Elrathia permultaなど
論文記載年 1924

特徴

エルラシア・キンギ-Elrathia kingii
エルラシア・キンギ-Elrathia kingii(2017年撮影)
マイコレクション

エルラシアは、三葉虫の中で最も馴染み深い属かも知れません。
小さなエルラシア・キンギはアメリカ・ユタ州のカンブリア紀の地層から大量に見つかる(数十万個を産出する)ため、博物館のミュージアムショップなどで安価に購入することができます。 おそらく、世界で一番多くのひとが持っている化石ではないでしょうか

エルラシア・キンギ-Elrathia kingii
エルラシア・キンギ-Elrathia kingii(2017年撮影)
地質標本館所蔵

エルラシアは、カンブリア紀中期の海に数多く生息していた三葉虫を代表する属です。

化石は頭部の両側頬の部分が欠けているものが多く、体長1~2cmほどの平坦なものが多く出回っています。
ボクが小学生の頃に初めて手にしたエルラシア・キンギも、体長2cm弱で頬の部分が欠けていました。同種で3.5cmを上回ると、かなり大きな部類に入ります。

なぜ頬が取れているの?:三葉虫の脱皮

三葉虫は、エビやカニと同じ節足動物の仲間です。成長するためには、古い殻を脱ぎ捨てる「脱皮(だっぴ)」を行う必要がありました。脱皮の際、頭部の「顔線(がんせん)」と呼ばれる線に沿って殻が割れ、まず両側の頬の部分(自由頬)が外れ、そこから本体が抜け出していきました。そのため、三葉虫の化石は、抜け殻である「頬が取れた状態」で見つかることが非常に多いのです。

エルラシア・キンギ 喰い痕
エルラシア・キンギ-Elrathia kingii(2019年撮影)
マイコレクション
一部いびつになった節足があり、治癒した跡

捕食痕と呼ばれる傷「何者かにかじられた痕」が残されているエルラシアも多く見つかっています。 カンブリア紀最大の肉食動物といえば、アノマロカリスが有名です。アノマロカリスによるものである確証はありませんが、 アノマロカリスの人気に連れて「捕食痕の残されたエルラシア・キンギは、通常の数倍から十倍ほどの取引価格に跳ね上がる」こともあるそうです。

過酷な環境のスペシャリスト

なぜエルラシア・キンギの化石は、これほど大量に見つかるのでしょうか?
その答えは、彼らが暮らしていた特殊な環境と、それに適応した驚くべき能力にありました。

彼らが生息していたユタ州の海底は、当時、酸素が極めて少ない「貧酸素環境」であったことが分かっています。ほとんどの生物にとっては生き地獄のような場所でしたが、エルラシアはこの過酷な環境に耐えることができました。彼らは天敵や競争相手が少ない環境で、爆発的に繁栄することができたのです。

また、彼らが大量にまとまって見つかるのは、海底で発生した土石流などによって、群れが一瞬にして生き埋めになった結果だと考えられています。貧酸素の環境だったために、死骸が他の生物に食べられたり、バクテリアに分解されたりすることなく、美しい姿のまま化石として残されたのです。

初めは、コノコリフェConocoryphe

この三葉虫が北米で発見された当初、コノコリフェConocorypheとして記載されました。1800年代のことです。
1924年、アメリカの古生物学者チャールズ・ウォルコットが別の属としてエルラシアElrathiaを記載し直しました。

エルラシアの切手・化石ギャラリー