ムッタブラサウルスとは
| 学名(属名) | Muttaburrasaurus |
| 名前の意味 |
ムッタブラ(地名)のトカゲ
Muttaburra(ムッタブラ)[地名]-saurus(トカゲ)[ギリシャ語] |
| 分類 | 鳥盤目 (基盤的新鳥盤類 または エラスマリア類) |
| 全長 | 約8m |
| 食性 | 植物食 |
| 生息時期 | 白亜紀前期〜後期初頭(約1億1200万年-9600万年前) |
| 下分類・種名 | Muttaburrasaurus langdoni |
| 論文記載年 | 1981 |
| 属名の記載論文 |
Muttaburrasaurus: a new Iguanodontid (Ornithischia:Ornithopoda) dinosaur from the Lower Cretaceous of Queensland.
Memoirs of the Queensland Museum. 20. by Bartholomai, A; Molnar, R.E. 1981. |
特徴と最新の分類
ムッタブラサウルスは、オーストラリアにおいて完全な骨格化石が発見されている恐竜の一つであり、長年にわたりその分類が議論の的となってきました。発見当初はイグアノドンの仲間と考えられ、その後はヨーロッパのラブドドン科に近いグループであるとする説などが提唱されてきました。
しかし、2020年代の研究により、南半球固有のグループである「エラスマリア」類に属するか、あるいはいかなるイグアノドン類からも外れる、原始的な系統の生き残りである可能性が示されました。他大陸から隔離されたオーストラリア(かつてのゴンドワナ大陸の一部)において、祖先的な特徴を維持したまま、独自に大型化などの進化を遂げたユニークな植物食恐竜であったと考えられています。
南米や南極、オーストラリアなど、南半球(ゴンドワナ大陸)で独自に繁栄した小型から中型の植物食恐竜のグループです。
鼻の上の「こぶ」と優れた感覚
ムッタブラサウルスの最も目立つ特徴は、吻部(鼻先)の上に突き出た大きな「こぶ」のような膨らみです。長らく鼻の骨(鼻骨)が空洞になって膨らんだものと考えられてきましたが、2026年の高解像度CTスキャンの結果、他の恐竜には見られない「前鼻骨(ぜんびこつ)」という骨で形成されていることが判明しました。
この構造の内部には複雑な空気室があり、これまで知られている恐竜の中でも最大級の嗅球(匂いを感じる脳の器官)を持っていたことがわかっています。これにより、食べ物を探したり危険を察知するための非常に鋭敏な嗅覚をもっていたようです。
また、耳の構造を調べたところ、低周波の音を聴き取る能力にも長けていました。広い沿岸部や森の中で、遠くまで届きやすい低周波を使って、仲間同士でコミュニケーションをとっていた可能性が指摘されています。
歯の秘密と食性
ムッタブラサウルスが何を食べていたかについても、研究は大きく進展しました。かつては、一部の歯の形から「肉も食べる雑食性だったのではないか」と言われたり、角竜類のように「植物をハサミのように切断して食べていた」と考えられたりしていました。
しかし、CT画像による解析で、彼らの奥歯は波のように次々と生え変わりながら、植物を効率的に「すり潰す」メカニズムを持っていたことが確定しました。基本的には植物食の恐竜だったのです。
さらに驚くべきことに、クチバシの先端には長年失われていたと考えられていた「前上顎骨歯(ぜんじょうがくこつし)」という前歯が残っていたことがわかりました。大型の植物食恐竜の多くはクチバシの先端に歯を持ちませんが、ムッタブラサウルスはこの前歯を使って、特定の葉や栄養価の高い木の実などを器用に摘み取って食べる「選択的採食者」であったと考えられています。
海辺の暮らしと「塩類腺」
地質学的な証拠から、ムッタブラサウルスは当時オーストラリア大陸の内陸に広がっていた浅い海の沿岸に生息していたことがわかっています。海辺の環境では、表面に塩水が付着した植物や、内部に塩分を多く含む植物を日常的に食べていたと考えられます。
植物食の動物が塩分を摂りすぎると体調を崩してしまいますが、近年の頭蓋骨の解析で、彼らは頭部に余分な塩分を排出するための「塩類腺(えんるいせん)」を持っていた可能性を示す証拠が見つかりました。
現在の海鳥(アホウドリなど)やウミイグアナなどが持つ、体内の過剰な塩分を濃い塩水として排出する器官です。恐竜の植物食のグループでこの器官の存在が示されたのは非常に珍しいことです。
巨大な体と歩行のスタイル
発見当初は、前肢にはイグアノドンに似た親指のスパイクがあり、四足歩行をしていると考えられていましたが、現在ではスパイクの存在自体が疑問視されています。
力学的な計算によると、体重は最大で約8.8トンにも達した可能性があり、これはティラノサウルスや現在のアフリカゾウにも匹敵する重さです。骨格や三半規管(バランスをとる耳の奥の器官)の構造から、彼らは四足歩行ではなく、基本的には後肢を使った「二足歩行(条件的二足歩行)」をしており、地上近くの植物を食べる時だけ前脚を地面について体を支えていたと考えられています。
現在では、前肢親指のスパイクの存在自体が疑問視されています。
ムッタブラサウルスの切手・化石ギャラリー