ヘレラサウルス

ヘレラサウルス

Herrerasaurus

ヘレラサウルスとは

学名(属名) Herrerasaurus
名前の意味 エレーラ(人名)のトカゲ
Herrera(エレーラ)[人名]-saurus(トカゲ)[ギリシャ語]
分類 竜盤目 (基盤的獣脚類、または基盤的竜盤類)
ヘレラサウルス科
全長 約3 - 6m
食性 肉食
生息時期 三畳紀後期(約2億3140万年-2億2890万年前)
下分類・種名 Herrerasaurus ischigualastensis
論文記載年 1963
属名の記載論文 La presencia de dinosaurios saurisquios en los "Estratos de Ischigualasto" (Mesotriásico Superior) de las provincias de San Juan y La Rioja (República Argentina).
Ameghiniana. 3.
by Reig, O.A. 1963.

ヘレラサウルス : 特徴

ヘレラサウルスは、三畳紀後期(約2億3140万年前から2億2890万年前)の南米アルゼンチンに出現した、化石記録上最も初期かつ最も完全な骨格が知られている恐竜の一つです。
全長約3〜6メートル、体重約200〜350キログラムに達する二足歩行の捕食者でした。

ヘレラサウルスの爪
ヘレラサウルスの爪(2017年撮影)

ヘレラサウルスの前肢(手)は、後肢の半分以下の長さしかありませんでしたが、獲物を捕らえるための強力な武器でした。前肢(手)には5本の指が存在していましたが、外側の2本は骨の突起程度にまで極端に退化しており、機能していたのは3本のみでした。これら3本の指は長く、その先端には獲物を深く突き刺し、引き裂くための鋭く湾曲した鉤爪が備わっていました。

また、両眼で立体的に物を見ることができる前方を向いた眼窩(がんか)をもっていました。後肢は強力で、脛(すね)から足先にかけてが長い構造をしており、二足歩行での走行に適していました。

スライド式の下顎内関節(かがくないかんせつ)
ヘレラサウルスの驚くべき特徴の一つは、下顎の中ほどに関節があり、顎を前後にスライドさせるように動かすことができた点です。
歯列を備えた顎の前半部が、暴れる獲物の動きに合わせて屈曲することで、獲物の逃走を防ぐと同時に、自身の顎にかかる負担を減らす役割を果たしていたと考えられています。ヘレラサウルスが、激しく動き回る動物を捕食していた肉食恐竜であったことを示しています。

三畳紀後期の生息環境と食性

ヘレラサウルスが生息していたアルゼンチンの「イスチグアラスト層」は、当時の気候が比較的湿潤な環境から半乾燥気候へと劇的に変化していた時期の地層です。
ヘレラサウルスのような中型の捕食者や、小型の植物食恐竜の多様化が進んだ時期でもありました。

ヘレラサウルスの全身骨格
ヘレラサウルスの全身骨格(2004年撮影)
奥は、復元模型です。

ヘレラサウルスは当時の生態系で頂点に近い捕食者でしたが、決して生態系の支配的な存在ではありませんでした。
当時の生態系で圧倒的な多数を占めていたのは、ヒペロダペドン(リンコサウルス類)やエクサエレトドン(哺乳類の祖先に近いキノドン類)といった植物食動物でした。また、生態系の頂点には、全長が最大7メートルにも達する巨大な四足歩行の肉食動物サウロスクス(偽鰐類)が君臨していました。

ヘレラサウルスは、巨大なサウロスクスとの直接的な争いを避けつつ、豊富に存在していた小型の植物食動物や、同時代に生息していた初期の小型恐竜たちを捕食するニッチ(生態的地位)を確立していたと考えられています。

また、近縁種の脳の空間(エンドキャスト)をスキャンした研究から、彼らの脳は小脳の特定の領域が大きく発達していたことが確認されています。
これは頭部や眼球の協調的な運動制御を司る部位であり、動いている獲物を視覚的に正確に追いながら、自身の身体を俊敏にコントロールすることができたことを示しています。ヘレラサウルスは待ち伏せ型の捕食者ではなく、高い運動能力を誇る追跡型のハンターだったのです。

同種間闘争と生態

ヘレラサウルスなど初期の肉食恐竜の頭骨化石には、しばしば治癒した痕跡のある頭部や顔面の損傷が見つかることがあります。
詳細な研究の結果、これらの傷は死後の変形などではなく、同種間の激しい闘争によって生じた「顔への噛みつき傷」であることが明らかになっています。

このような顔面を噛み合う行動は、現代のワニ類において、縄張り争いや配偶者を巡るオス同士の闘争で頻繁に観察される行動パターンと一致しています。
後の時代の恐竜(鳥類に近い仲間)が、羽毛を用いた視覚的なディスプレイで争いを避けるようになっていったのに対し、ヘレラサウルスは現代のワニに近い、暴力的な社会行動をもっていたと推測されています。

発見と分類

1958年から1959年にかけて、アルゼンチンのアンデス山脈の牧場主であったビクトリーノ・エレーラ(Victorino Herrera)が、サンフアン州周辺の乾燥した発掘地で最初の化石を発見しました。
属名はこの発見者に敬意を表して「エレーラのトカゲ」という意味で名付けられ、1963年に古生物学者オスバルド・レイグによって記載されました。

ヘレラサウルスの全身骨格化石
全身骨格化石(2017年撮影)

発見当初は化石が極めて断片的であったため、個体の成長度合いなどによる形の違いが別種の恐竜だと誤認され、 同じ地層から見つかった化石が「イスチサウルス(Ischisaurus)」や「フレングエリサウルス(Frenguellisaurus)」という別属として記載されていました。
しかし1988年、ポール・セレノらが率いる合同調査隊がほぼ完全な骨格を発見したことで、これらはそれぞれヘレラサウルスの「幼い個体」と「成熟した大型個体」であったことが判明し、すべてヘレラサウルスに統合されました。

ヘレラサウルスの切手

また、ヘレラサウルスは恐竜の初期進化において重要な位置にいます。
かつては骨盤などの特徴から「恐竜が誕生する直前の祖先(恐竜類の外群)」と考えられていた時期もありました。しかし現在では、背骨の特別な関節(ヒポスフェン・ヒパントラム関節)など恐竜類に特有の構造が確認されたため、恐竜として進化を遂げた「基盤(初期)的な獣脚類」、あるいは獣脚類と竜脚形類が分かれる前の「基盤(初期)的な竜盤類」とする見解が主流となっています。

ヘレラサウルスの切手・化石ギャラリー