ドロマエオサウルスとは
| 学名(属名) | Dromaeosaurus |
| 名前の意味 |
走るトカゲ
dromeus(走る者)[ギリシャ語]-saurus(トカゲ)[ギリシャ語] |
| 分類 | 竜盤目・獣脚類(ドロマエオサウルス科・ドロマエオサウルス亜科) |
| 全長 | 約1.8〜2.3m |
| 食性 | 肉食 |
| 生息時期 | 白亜紀後期(約8000万年-6900万年前) |
| 下分類・種名 |
Dromaeosaurus albertensis
Dromaeosaurus explanatus(無効名) Dromaeosaurus falculus(無効名) Dromaeosaurus laevifrons(無効名) Dromaeosaurus gracilis(無効名) |
| 論文記載年 | 1922年 |
| 属名の記載論文 |
The family Deinodontidae, with notice of a new genus from the Cretaceous of Alberta.
Bulletin of the American Museum of Natural History. 46 by Matthew, William D.; Brown, Barnum. 1922. |
特徴と発見史
ドロマエオサウルスは、白亜紀後期(約8000万〜6900万年前)の北アメリカ大陸に生息していた中型の獣脚類です。名前はギリシャ語の「走るトカゲ」に由来し、いわゆる「ラプトル」と総称されるマニラプトル類・ドロマエオサウルス科の代表的な恐竜として知られています。
最初の化石は、1914年にアメリカ自然史博物館のバーナム・ブラウンらが、カナダ・アルバータ州のレッドディア川沿い(現在のダイナソー州立公園)で発見しました。
1922年に初めて記載された際、ドロマエオサウルスは「デイノドン科(現在のティラノサウルス科)」の仲間として分類されていました。前歯が大きく、吻部(ふんぶ:口先)が深く顎が頑丈な構造をしていたため、小型のティラノサウルス類だと考えられたのです。
しかし、1969年にジョン・オストロムがデイノニクスを研究・記載したことで状況が一変します。足の巨大な鎌状の爪(シックル・クロウ)や長い前肢など、デイノニクスやヴェロキラプトルと多くの共通点が見つかり、新たに「ドロマエオサウルス科」という独立したグループが設立されました。
真ドロマエオサウルス類としての位置づけ
ドロマエオサウルス科の中でも、より派生的な(進化した)グループは「真ドロマエオサウルス類」と呼ばれます。これらは主に、細長い吻部を持つアジアの「ヴェロキラプトル亜科」、北米の「サウロルニトレステス亜科」、そして箱型でマッシブな頭骨を持つ「ドロマエオサウルス亜科」の3つに分けられます。ドロマエオサウルスは、最も頑丈な頭骨を持つグループの代表格です。
ドロマエオサウルス自体の羽毛化石は見つかっていませんが、近縁種の証拠(尺骨にある羽の付着点など)から、全身が羽毛で覆われていたと考えられています。飛ぶことはできませんでしたが、翼状の前肢は体温保持やディスプレイ、疾走時のバランス維持に役立っていたようです。
また、脳函(脳を収める骨の空間)の分析から、ドロマエオサウルスは高い知能を持ち、特に嗅覚と立体視による視覚が発達していたことが判明しています。昼行性の優れたハンターであったと考えられます。
最大の武器は強靭な「顎」
一般に「ラプトル」と言えば、後足の第2指にある鎌のような巨大なカギ爪(シックル・クロウ)で獲物を切り裂く姿を想像するかもしれません。しかし、近年の生体力学的研究(RPRモデル)により、あの爪は切り裂くためではなく、猛禽類のように獲物を地面に押さえつけ、逃げられないようにするためのアンカーとして使われていた可能性が高いとされています。
ドロマエオサウルス最強の武器は、その特異な頭骨から生み出される強靭な「顎」でした。頭骨には高く隆起した「矢状稜(しじょうりょう)」があり、顎を閉じるための強力な筋肉が付着していました。これにより、ドロマエオサウルスの最大咬合力は同体格のヴェロキラプトルの約3倍にも達したと推定されています。
彼らの歯は数が少ない代わりに根元が太く頑丈で、ティラノサウルスのように獲物に深く噛み付き、そのまま首の筋肉を使って後方に肉を引きちぎる「穿刺と牽引(Puncture and pull)」という捕食行動をとっていたと考えられています。歯の化石に激しい摩耗が見られることからも、骨ごと獲物を噛み砕いていた可能性が示唆されています。
ニッチ分割:同じ時代の肉食恐竜との棲み分け
ドロマエオサウルスが発見されたカナダのダイナソーパーク層には、他にもサウロルニトレステス(ドロマエオサウルス科)やトロオドン科といった小型の羽毛恐竜が生息していました。
サウロルニトレステスが肉を切り裂くことに特化し、トロオドン科が柔らかい小型動物を狙う中、ドロマエオサウルスは強靭な顎を活かして鳥脚類や角竜類の植物食恐竜など、より大型で抵抗する獲物を狩ることで、獲物が重ならないよう生態的地位(ニッチ)を分けていたと考えられています。
分類と、巨大化への進化
かつて、ドロマエオサウルス属には複数の種が存在すると考えられていました。しかし、化石が断片的すぎたり、別の属として再分類されたりした結果、2024年現在、確実な種として有効と認められているのは、最初に記載された模式種ドロマエオサウルス・アルベルテンシス (Dromaeosaurus albertensis) のみとなっています。
ドロマエオサウルスの体重は約15〜16kgと算出されています。ただし、一部の研究では最大で約34kgに達したとも推定されています。
ダイナソーパーク層でドロマエオサウルスの発見される化石の数は非常に少なく、同じ場所にいたサウロルニトレステスと比べても極端に稀です。これは、ドロマエオサウルスが大型の獲物を狩るために広大な縄張りを必要としたか、あるいは化石が残りにくい森林の奥深くに生息していたためだと推測されています。
進化の遺産とダコタラプトルを巡る論争
ドロマエオサウルス亜科の「顎を強靭化して大型獲物を狙う」という適応は、進化の過程で「巨大化」を可能にしました。前期白亜紀のユタラプトル(体重500kg)や、白亜紀末期のダコタラプトル(全長約5m)などの巨大な近縁種が存在しています。
ちなみに、この巨大なダコタラプトルの最初の化石(ホロタイプ)には、一時「叉骨(さこつ)」と発表された骨が含まれていましたが、後の研究でこれがスッポン科の亀の骨であることが判明しています。
参考:無効名となったドロマエオサウルスの種(下位分類)
ドロマエオサウルス(Dromaeosaurus)は属名です。有効名のDromaeosaurus albertensisの他に、かつて無効名となった6種が記載されていました。
| 種名 - 二名法 | 無効とされた年 | 現在の分類 / 無効となった理由 |
|---|---|---|
| Dromaeosaurus laevifrons | 1995年 | 疑問名 ( Nomen dubium )。化石が断片的すぎるため。 |
| Dromaeosaurus cristatus | 1995年 | 疑問名 ( Nomen dubium )。化石が断片的すぎるため。 |
| Dromaeosaurus gracilis | 1995年 | 疑問名 ( Nomen dubium )。化石が断片的すぎるため。 |
| Dromaeosaurus explanatus | 1987年 | 歯の化石のみ。 Saurornitholestes 属に再分類。 |
| Dromaeosaurus minutus | 1995年 | 疑問名 ( Nomen dubium )。化石が断片的すぎるため。 |
| Dromaeosaurus falculus | 1995年 | 疑問名 ( Nomen dubium )。化石が断片的すぎるため。 |
ドロマエオサウルスの切手・化石ギャラリー