デイノニクス

デイノニクス

Deinonychus

デイノニクスとは

学名(属名) Deinonychus
名前の意味 恐ろしい爪
deinos(恐ろしい)[ギリシャ語]-onyx(カギ爪)[ギリシャ語]
分類 竜盤目・獣脚類(獣脚亜目・ドロマエオサウルス科)
全長 約3.0 - 3.4m
体重 約70 - 100kg
食性 肉食
生息時期 白亜紀前期(約1億1500万年-1億800万年前)
下分類・種名 Deinonychus antirrhopus
論文記載年 1969
属名の記載論文 Osteology of Deinonychus antirrhopus, an unusual theropod from the Lower Cretaceous of Montana.
Peabody Museum of Natural History YALE University Bulletin. 30.
by John H. Ostrom. 1969.

恐竜のイメージを覆した「恐竜ルネサンス」の立役者

デイノニクスは、それまでの「恐竜は動きが鈍い巨大な爬虫類」という常識を打ち破り、恐竜が活発で敏捷な動物であったことを初めて示した重要な恐竜です。1960年代に始まったこの考え方の大きな転換は「恐竜ルネサンス」と呼ばれました。

デイノニクスの全身骨格化石
全身骨格化石(2011年撮影)

身体は中型ですが、非常に軽量で敏捷な体つきをしていました。顔の横に広く張り出した大きな目によって獲物との距離を正確に測る「立体視」が可能で、恐竜の中でも高い知能を備えていたと考えられています。

現在では、鳥のような羽毛で覆われていたことが確実視されています。また、足の長さの比率などの研究では、長距離を走り続けるのには適しておらず、茂みに身を隠して高い瞬発力を活かして獲物に飛びかかる「待ち伏せ型」のハンターだったと考えられています。

「恐ろしい爪」の本当の使い方:猛禽類との共通点

デイノニクス後足のかぎ爪
デイノニクス後足のかぎ爪(2016年撮影)
第2指の爪は、獲物を捕らえる際の武器

デイノニクスの最大の特徴であり、名前の由来でもある後足の長さ15cmにもなる巨大な鉤爪(かぎづめ)。かつては、獲物の腹部を切り裂くナイフのように使われたと考えられていました。
しかし、近年の生体力学的なシミュレーションにより、この爪の形は「切り裂く」ことには向いていないことがわかっています。現在最も有力なのは、現代のタカやワシなどの猛禽類(もうきんるい)と同じ使い方をしていたという説です。

デイノニクスは自分と同じくらいの大きさの獲物に飛びかかって馬乗りになり、この巨大な爪を深く突き刺して「逃走を防ぐための錨(いかり)」として機能させていました。そして、獲物を自らの体重で押さえつけながら、強力な首の筋肉を使って肉を生きたまま引きちぎって捕食していたと考えられています。

バランスをとるための尾と羽ばたき行動: 激しく暴れる獲物の上で振り落とされないよう、デイノニクスは骨質の腱で補強された硬い尾で体のバランスを保っていました。同時に、羽毛の生えた長い前肢(腕)を激しく上下に羽ばたかせて姿勢を安定させていたと考えられています。この「地上でバランスを取るための羽ばたき」行動が、のちに鳥類が大空を飛ぶための力学的な土台(飛行の起源)になったとも考えられています。

温血動物(恒温動物)であったことの決定的な証拠

デイノニクスが活発に動き回るためには、現代の鳥や哺乳類のように、自らの体内で熱を作り出して体温を一定に保つ「恒温性(内温性)」が必要だと考えられ、これが"恐竜温血説"を展開するきっかけとなりました。

デイノニクスの全身骨格化石
全身骨格化石(2019年撮影)

長い間その具体的な証拠は見つかっていませんでしたが、アメリカ自然史博物館に保管されていた古い化石を再調査した結果、驚くべき発見がありました。雌のデイノニクスの腹部の骨のすぐそばに、卵の殻が密着した状態で見つかったのです。

この卵は土に埋められておらず、外気に触れる「開放型」の巣に産み落とされていました。外気にさらされる卵を孵化させるためには、親が自らの体温で卵を温める「抱卵(ほうらん)」を行うしかありません。この抱卵行動の化石証拠により、デイノニクスが高い体温を維持できる恒温動物であったことが証明されたのです。

社会性に関する論争:群れでの狩りか、単独行動か

長年にわたり、デイノニクスはオオカミのように高度なコミュニケーションを取り、集団で協力して巨大な獲物(植物食恐竜のテノントサウルスなど)を狩っていた「パック・ハンティング」を行っていたと考えられてきました。映画などでも知的な集団ハンターとして描かれることが多くあります。

しかし、最新の科学的な分析(歯の成分分析など)によって、この説は見直されつつあります。オオカミのように家族で群れを作っている場合、親が獲物を巣に持ち帰って子に与えるため、大人も子供も同じ栄養を摂取しているはずです。しかし、デイノニクスの化石を調べた結果、子供と大人では主食としている獲物がはっきりと異なっていることがわかってきました。

現在では、彼らは家族単位の高度な群れを持たず、現代のコモドオオトカゲやワニのように、一匹の獲物の血の匂いにつられて無差別にたくさんの個体が集まってきて、餌を奪い合いながら群がっていた(モビング)という説が有力視されています。

発見と論文記載

デイノニクスの化石は、アメリカのモンタナ州やワイオミング州などに広がる白亜紀前期の地層から産出しています。

デイノニクスの左足のかぎ爪スケッチ(YPM5205)
デイノニクスの左足のかぎ爪スケッチ(標本番号YPM5205) 記載論文抜粋(1969年)
出典:Osteology of Deinonychus antirrhopus, an unusual theropod from the Lower Cretaceous of Montana.
Peabody Museum of Natural History YALE University Bulletin. 30.
by John H. Ostrom. 1969.

最初の発見は1931年、古生物学者バーナム・ブラウンによるものでした。しかし、彼が正式に論文を発表することはなく、標本は博物館に保管されたままでした。

歴史的な転換点は1964年に訪れます。古生物学者ジョン・オストロムが新たな発掘調査で小型肉食恐竜の断片的な化石を多数発見しました。彼は完全な左足の化石などを基準として、1969年に新属デイノニクス(Deinonychus)を正式に記載します。その後、オストロムはバーナム・ブラウンが過去に発掘していた標本も同じ種であると見抜き、分類し直しました。

さらにオストロムは、デイノニクスの骨格が始祖鳥と驚くほど一致していることを発見し、長らく途絶えていた「恐竜から鳥が進化した」という学説を復活させました。デイノニクスは、人類の恐竜に対する理解を根本から変えた記念碑的な恐竜なのです。

デイノニクスのホロタイプ標本|左足のかぎ爪(実物化石)
デイノニクスのホロタイプ標本|左足のかぎ爪(2019年撮影)

デイノニクスの切手・化石ギャラリー