イクチオサウルス

イクチオサウルス

Ichthyosaurus

イクチオサウルス(魚竜)とは

学名(属名) Ichthyosaurus
名前の意味 魚のようなトカゲ(爬虫類)
ichtys(魚のような)[ギリシャ語]-saurus(トカゲ)[ギリシャ語]
分類 魚竜目・イクチオサウルス科
全長 約3m
食性 肉食(魚やイカなど)
生息時期 三畳紀後期-ジュラ紀前期
下分類・種名 Ichthyosaurus communis
Ichthyosaurus breviceps
Ichthyosaurus conybeari
Ichthyosaurus intermedius
Ichthyosaurus anningae
Ichthyosaurus somersetensis
論文記載年 1821

特徴

イクチオサウルス(Ichthyosaurus)のイラスト
イクチオサウルスのイラスト

イクチオサウルスは、三畳紀後期からジュラ紀前期にかけて、世界中の海で繁栄した魚竜です。全長は約3mに達し、現生のイルカによく似た流線型の体型を持つ、海での生活に高度に適応した爬虫類でした。

その最も際立った特徴の一つが、体に不釣り合いなほど巨大な眼です。この眼は、光が乏しい深海や、夜間の狩りで獲物を見つけるのに非常に役立ったと考えられています。また、硬い耳の骨は、水中の微細な振動を捉える鋭敏なソナーとして機能し、巨大な眼と合わせて、彼らを非常に優れたハンターにしていました。

背びれに骨はありません。イクチオサウルスが記載された当初は「背びれのない」状態で復元されていましたが、のちに背びれの肉質痕跡が保存された化石が発掘されて背びれが描かれるようになりました。

イクチオサウルスやその他の魚竜について、出産シーンを閉じ込めたようなプレート化石も複数みつかっており、卵胎生(母親のお腹の中で卵を孵して、赤ちゃんのかたちで産む)であったことがわかっています。産まれた直後から自力で泳げるよう、尾びれが発達していました。

イクチオサウルスの化石
ドイツ・ハウフ博物館のイクチオサウルス化石

温血動物だった?:驚異の軟組織が明かす真実

イクチオサウルスの切手
切手

長年、イクチオサウルスは変温動物の「爬虫類」と考えられてきました。しかし2018年、その常識を覆す、驚異的な化石の研究が発表されました。

ドイツで発見された、イクチオサウルスに極めて近縁なステノプテリギウスの化石には、皮膚やその下の組織がほぼ完璧な状態で保存されていました。この化石を分析した結果、驚くべき事実が明らかになったのです。

  • 皮下脂肪(Blubber)の発見:皮膚の下に、現代のクジラやイルカ、ペンギンなどが持つものと全く同じ細胞構造を持つ、分厚い皮下脂肪層が発見されました。これは体温を外部に逃さないための強力な断熱材であり、イクチオサウルスが自ら熱を生み出す「温血動物」であったことを示す、非常に強力な証拠です。
  • 本物の体色の特定:皮膚に残された色素細胞(メラノソーム)を分析した結果、彼らの体色は、背中側が暗く、腹側が明るい「カウンターシェーディング」であったことが判明しました。これは、海中で太陽の光による影を消し、獲物や敵から見つかりにくくするためのカモフラージュです。

これらの発見により、イクチオサウルスは、単に形がイルカに似ていただけではなく、その生理機能までもが、現代の温血の海洋哺乳類に驚くほど似通っていたことが明らかになりました。これは「収斂進化」の好例と言えます。

化石収集家メアリー・アニング

メアリー・アニングが発掘したイクチオサウルス
メアリー・アニングが、1823年に発掘したイクチオサウルス(2017年撮影)
大英自然史博物館に所蔵されています
(2017年東京・国立科学博物館で開催された「大英自然史博物館展」で展示されました)

イギリスの化石収集家&化石商として有名なメアリー・アニング(Mary Anning)。 彼女を一躍有名にしたのが、1823年に発掘したイクチオサウルスの全身骨格標本でした。

1811年にジョセフ・アニング(Joseph Anning)が、イギリス・ドーセット(Dorset)で魚竜の頭骨化石を発見しました。これが世界で初めてのイクチオサウルス発見となります。翌年1812年、その他の部位をジョセフ・アニングの妹だったメアリー・アニング(当時12歳)が発見しました(現在この標本は、発見者アニングの名前を冠した"Ichthyosaurus anningae"の種名が与えられ、イギリス・サウスヨークシャー州にあるドンカスター博物館に所蔵されています)。

1821年、イギリスの古生物学者Henry De la Beche & William Conybeareが新属としてイクチオサウルスを論文記載します。アニング兄妹が発掘したものとは別の模式標本によるものでした。

1823年、最も有名となるイクチオサウルス(ichthyosaurus communis)の骨格標本をメアリー・アニング(Mary Anning)が発見します。驚くべき保存状態だったこの標本は、大英自然史博物館に所蔵されています。

イクチオサウルスの新種(2017年記載)
2017年に記載された新種のイクチオサウルス・サマーセテンシスの骨格標本
出典:On the largest Ichthyosaurus: A new specimen of Ichthyosaurus somersetensis containing an embryo.
Acta Palaeontol. Pol. 62.
by Dean R. Lomax and Sven Sachs.

イクチオサウルスの切手・化石ギャラリー